第3章 不動産の価格を形成する要因

 

 不動産の価格を形成する要因(以下「価格形成要因」という。)とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要三者に影響を与える要因をいう。

不動産の価格は、多数の要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。

したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、価格形成要因を市場参加者の観点から明確に把握し、かつ、その推移及び動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析して、前記三者に及ぼすその影響を判定することが必要である。

価格形成要因は、一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられる。

 

第1節 一般的要因

 一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。

 それは、自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別される。

一般的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。


Ⅰ 自然的要因

1.地質、地盤等の状態

2.土壌及び土層の状態

3.地勢の状態

4.地理的位置関係

5.気象の状態


Ⅱ 社会的要因

1.人口の状態

2.家族構成及び世帯分離の状態

3.都市形成及び公共施設の整備の状態

4.教育及び社会福祉の状態

5.不動産の取引及び使用収益の慣行

6.建築様式等の状態

7.情報化の進展の状態

8.生活様式等の状態


Ⅲ 経済的要因

1.貯蓄、消費、投資及び国際収支の状態

2.財政及び金融の状態

3.物価、賃金、雇用及び企業活動の状態

4.税負担の状態

5.企業会計制度の状態

6.技術革新及び産業構造の状態

7.交通体系の状態

8.国際化の状態


Ⅳ 行政的要因

1.土地利用に関する計画及び規制の状態

2.土地及び建築物の構造、防災等に関する規制の状態

3.宅地及び住宅に関する施策の状態

4.不動産に関する税制の状態

5.不動産の取引に関する規制の状態


第2節 地域要因

 地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。


Ⅰ 宅地地域

1.住宅地域

 住宅地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、温度、湿度、風向等の気象の状態

(2)街路の幅員、構造等の状態

(3)都心との距離及び交通施設の状態

(4)商業施設の配置の状態

(5)上下水道、ガス等の供給・

   処理施設の状態

(6)情報通信基盤の整備の状態

(7)公共施設、公益的施設等の配置の状態

(8)汚水処理場等の嫌悪施設等の有無

(9)洪水、地すべり等の災害の発生の危険性

(10)騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度

(11)各画地の面積、配置及び利用の状態

(12)住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態

(13)眺望、景観等の自然的環境の良否

(14)土地利用に関する計画及び規制の状態

 

2.商業地域

 前記1.に掲げる地域要因のほか、商業地域特有の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)商業施設又は業務施設の種類、規模、集積度等の状態

(2)商業背後地及び顧客の質と量

(3)顧客及び従業員の交通手段の状態

(4)商品の搬入及び搬出の利便性

(5)街路の回遊性、アーケード等の状態

(6)営業の種別及び競争の状態

(7)当該地域の経営者の創意と資力

(8)繁華性の程度及び盛衰の動向

(9)駐車施設の整備の状態

(10)行政上の助成及び規制の程度


3.工業地域

 前記1.に掲げる地域要因のほか、工業地域特有の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設の整備の状況

(2)労働力確保の難易

(3)製品販売市場及び原材料仕入市場との位置関係

(4)動力資源及び用排水に関する費用

(5)関連産業との位置関係

(6)水質の汚濁、大気の汚染等の公害の発生の危険性

(7)行政上の助成及び規制の程度


Ⅱ 農地地域

 農地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態

2.起伏、高低等の地勢の状態

3.土壌及び土層の状態

4.水利及び水質の状態

5.洪水、地すべり等の災害の発生の危険性

6.道路等の整備の状態

7.集落との位置関係

8.集荷地又は産地市場との位置関係

9.消費地との距離及び輸送施設の状態

10.行政上の助成及び規制の程度


Ⅲ 林地地域

 林地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態

2.標高、地勢等の状態

3.土壌及び土層の状態

4.林道等の整備の状態

5.労働力確保の難易

6.行政上の助成及び規制の程度

なお、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換し、又は移行しつつある地域については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域の地域要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域の地域要因をより重視すべきである。


第3節 個別的要因

 個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。個別的要因は、土地、建物等の区分に応じて次のように分けられる。

Ⅰ 土地に関する個別的要因

1.宅地

(1)住宅地

 住宅地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 日照、通風及び乾湿

③ 間口、奥行、地積、形状等

④ 高低、角地その他の接面街路との関係

⑤ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑥ 接面街路の系統及び連続性

⑦ 交通施設との距離

⑧ 商業施設との接近の程度

⑨ 公共施設、公益的施設等との接近の程度

⑩ 汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度

⑪ 隣接不動産等周囲の状態

上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑬ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑮ 土壌汚染の有無及びその状態

⑯ 公法上及び私法上の規制、制約等


(2)商業地

 商業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 間口、奥行、地積、形状等

③ 高低、角地その他の接面街路との関係

④ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑤ 接面街路の系統及び連続性

⑥ 商業地域の中心への接近性

⑦ 主要交通機関との接近性

⑧ 顧客の流動の状態との適合性

⑨ 隣接不動産等周囲の状態

上下水道、ガス等の

  供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑪ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑬ 土壌汚染の有無及びその状態

⑭ 公法上及び私法上の規制、制約等


(3)工業地

 工業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 間口、奥行、地積、形状等

③ 高低、角地その他の接面街路との関係

④ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑤ 接面街路の系統及び連続性

⑥ 従業員の通勤等のための主要交通機関との接近性

⑦ 幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設との位置関係

⑧ 電力等の動力資源の状態及び引込の難易

⑨ 用排水等の供給・処理施設の整備の必要性

上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑪ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑬ 土壌汚染の有無及びその状態

⑭ 公法上及び私法上の規制、制約等


2.農地

 農地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、乾湿、雨量等の状態

(2)土壌及び土層の状態

(3)農道の状態

(4)灌漑排水の状態

(5)耕うんの難易

(6)集落との接近の程度

(7)集荷地との接近の程度

(8)災害の危険性の程度

(9)公法上及び私法上の規制、制約等


3.林地

 林地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、乾湿、雨量等の状態

(2)標高、地勢等の状態

(3)土壌及び土層の状態

(4)木材の搬出、運搬等の難易

(5)管理の難易

(6)公法上及び私法上の規制、制約等


4.見込地及び移行地

 見込地及び移行地については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域内の土地の個別的要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域内の土地の個別的要因をより重視すべきである。


Ⅱ 建物に関する個別的要因

 建物の各用途に共通する個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.建築(新築、増改築等又は移転)の年次

2.面積、高さ、構造、材質等

3.設計、設備等の機能性

4.施工の質と量

5.耐震性、耐火性等建物の性能

6.維持管理の状態

7.有害な物質の使用の有無及びその状態

8.建物とその環境との適合の状態

9.公法上及び私法上の規制、制約等

なお、市場参加者が取引等に際して着目するであろう個別的要因が、建物の用途毎に異なることに留意する必要がある。


Ⅲ 建物及びその敷地に関する個別的要因

 前記Ⅰ及びⅡに例示したもののほか、建物及びその敷地に関する個別的要因の主なものを例示すれば、敷地内における建物、駐車場、通路、庭等の配置、建物と敷地の規模の対応関係等建物等と敷地との適応の状態、修繕計画・管理計画の良否とその実施の状態がある。

 さらに、賃貸用不動産に関する個別的要因には、賃貸経営管理の良否があり、その主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.賃借人の状況及び賃貸借契約の内容

2.貸室の稼働状況

3.躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分


第4章 不動産の価格に関する諸原則

 不動産の価格は、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが、その形成の過程を考察するとき、そこに基本的な法則性を認めることができる。不動産の鑑定評価は、その不動産の価格の形成過程を追究し、分析することを本質とするものであるから、不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するためには、鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、これらを具体的に現した以下の諸原則を活用すべきである。

 これらの原則は、一般の経済法則に基礎を置くものであるが、鑑定評価の立場からこれを認識し、表現したものである。

 なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連しているものであることに留意しなければならない。


Ⅰ 需要と供給の原則

 一般に財の価格は、その財の需要と供給との相互関係によって定まるとともに、その価格は、また、その財の需要と供給とに影響を及ぼす。

 不動産の価格もまたその需要と供給との相互関係によって定まるのであるが、不動産は他の財と異なる自然的特性及び人文的特性を有するために、その需要と供給及び価格の形成には、これらの特性の反映が認められる。


Ⅱ 変動の原則

 一般に財の価格は、その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。不動産の価格も多数の価格形成要因の相互因果関係の組合せの流れである変動の過程において形成されるものである。したがって、不動産の鑑定評価に当たっては、価格形成要因が常に変動の過程にあることを認識して、各要因間の相互因果関係を動的に把握すべきである。

特に、不動産の最有効使用(Ⅳ参照)を判定するためには、この変動の過程を分析することが必要である。


Ⅲ 代替の原則

 代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる。

 不動産の価格も代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成される。


Ⅳ 最有効使用の原則

 不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

 なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。


Ⅴ 均衡の原則

 不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、その構成要素の組合せが均衡を得ていることが必要である。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、この均衡を得ているかどうかを分析することが必要である。

 

Ⅵ 収益逓増及び逓減の原則

 ある単位投資額を継続的に増加させると、これに伴って総収益は増加する。しかし、増加させる単位投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、その後は減少する。

 この原則は、不動産に対する追加投資の場合についても同様である。


Ⅶ 収益配分の原則

 土地、資本、労働及び経営(組織)の各要素の結合によって生ずる総収益は、これらの各要素に配分される。したがって、このような総収益のうち、資本、労働及び経営(組織)に配分される部分以外の部分は、それぞれの配分が正しく行われる限り、土地に帰属するものである。

 

Ⅷ 寄与の原則

 不動産のある部分がその不動産全体の収益獲得に寄与する度合いは、その不動産全体の価格に影響を及ぼす。

 この原則は、不動産の最有効使用の判定に当たっての不動産の追加投資の適否の判定等に有用である。

 

Ⅸ 適合の原則

 不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、当該不動産がその環境に適合していることが必要である。

したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産が環境に適合しているかどうかを分析することが必要である。

 

Ⅹ 競争の原則

 一般に、超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を減少させ、終局的にはこれを消滅させる傾向を持つ。不動産についても、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の財との間において競争関係が認められ、したがって、不動産の価格は、このような競争の過程において形成される。

 

ⅩⅠ 予測の原則

 財の価格は、その財の将来の収益性等についての予測を反映して定まる。

 不動産の価格も、価格形成要因の変動についての市場参加者による予測によって左右される。