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■収益還元法とは
収益還元法は、
対象不動産が
将来生み出すであろうと期待される純収益の
現在価値を求めることにより
対象不動産の試算価格(収益価格)
を求める手法である。
有効性
収益還元法は、
賃貸用不動産、または
賃貸以外の事業の用に供する不動産の
価格を求める際に有効。
手法の種類
収益価格を求める手法には、
①一期間の純収益を還元利回りによって
還元する方法(直接還元法。基本的には、
価格時点初年度純収益を還元利回りで除して
収益価格を求める。)
②連続する複数の期間に発生する純収益及び
復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割引き、
それぞれを合計する方法がある
(DCF法、基本的には、
②復帰価格に複利現価率を乗じて求めた
現在価値
とを合算して収益価格を求める)
復帰価格:
保有期間満了時点における対象不動産の価格
(満了時点翌年の予想純収益を、
満了時点における還元利回り(最終還元利回り)で除して(割り算して)求める)
直接還元法とDCF法の相違点
直接還元法とDCF法とは、
①不動産の収益性に着目し、
②将来期待される純収益の現在価値の総和
を求める点において共通している。
一方、
①直接還元法は一期間の純収益
(初年度純収益または標準化された単年度純収益)
から試算価格を求めるのに対し、
②DCF法は保有期間各期の純収益と
復帰価格とを明示したうえで
試算価格を求める点で大きく異なる。
DCF法は純収益・復帰価格に係る
将来予測を明示する点において
「試算価格の算定過程に関する説明力」
に優れている。
しかし、
将来予測は直接還元法の純収益の標準化や
還元利回りにも反映されるため、
「試算価格そのものに関する説明力」
に優劣はない。
直接還元法又はDCF法の
いずれの方法を適用するかについては、
収集可能な資料の範囲・対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。
例1)オフィスビル、現行賃料割高、今後10年で退去・減額改定が見込まれる場合
①直接還元法の適用に際しては、
将来の賃料減額リスクについて、
還元利回りを高める要因として反映させる。
退去や減額改訂を想定して
純収益を標準化させることも可能だが、
当該要因を還元利回りと純収益に
重複して反映させないことに留意。
②DCF法の適用に際しては、
退去・減額改定の時期や程度を予測のうえ、
毎期の純収益(又は空室等損失相当額)に
適切に反映させなければならない。
例2)建物老朽化、5年後に設備更新工事必要
①直接還元法の適用に際しては、
総費用(修繕費)の査定において、
平準化した大規模修繕費を計上する。
②DCF法の適用に際しては、大規模修繕費を
1.毎期の積み立てとして計上する方法と、
2.実際に支出される時期に計上する方法がある。
実際に支出する時期の予測は、
対象不動産の実態に応じて適切に行う必要
がある。
例3)建物の残存耐用年数が短い(5年)と見込まれる場合
既存建物に係る純収益が
非永続的であることから、
①直接還元法の適用に際しては、
有期還元法を採用すべきである。
このとき、
収益期間は5年(経済的残存耐用年数)と設定し、
現行賃料に基づく純収益の現価の総和に、
残存価格等
(5年後の更地価格から取り壊し費用を控除等した額)
の現価を加算するものとする。
②DCF法の適用に際しては、
現行契約に基づく毎期の純収益と、
復帰価格(5年後の更地価格から取り壊し費用を控除等した額)
とを計上する。
純収益と還元利回りの整合性
還元利回りは、
不動産の収益率を表し、
収益価格を求めるために用いるものである。
還元利回りは、
①直接還元法の収益価格及び
DCF法の復帰価格の算定において、
②一期間の純収益から対象不動産の価格を
直接求める際に使用される率であり、
③将来の収益に影響を与える要因の変動予測と
④予測に伴う不確実性
を含むものである。
還元利回りは、
①市場の実勢を反映した利回りとして
求める必要があり、
②還元対象となる純収益の変動予測を含むものであることから、
③それらの予測を的確に行い、
④還元利回りに反映させる必要がある。
純収益と還元利回りの整合性
直接還元法における純収益は、
対象不動産の
①初年度の純収益を採用する場合と、
②標準化された純収益を採用する場合がある。
この場合において、
還元対象となる一期間の純収益と、
それに対応して採用される還元利回りは、
その把握の仕方において整合性が取れたもの
でなければならない。
すなわち、
還元対象となる一期間の純収益として
①ある一定期間の標準化されたものを採用する場合には、
②還元利回りもそれに対応したもの
(=純収益の標準化において織り込まれた変動予測を含まない還元利回り)
を採用することが必要。
また、
①建物その他の償却資産を含む不動産の
純収益の算定においては、
②基本的に減価償却費を控除しない
償却前の純収益を用いるべきであり、
③それに対応した還元利回りで還元する必要がある。
一方、
減価償却費を控除した償却後の純収益を用いる場合には、
還元利回りも償却後の純収益に対応するもの
(償却率を含まない還元利回り)
を用いなければならない。
還元利回りと割引率
共通点
還元利回り及び割引率は、
ともに不動産の収益率を表し、
収益価格を求めるために用いるものであるが、
基本的には次のような違いがある。
相違点
還元利回りは、
①直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、
②一期間の純収益から対象不動産の価格を
直接求める際に使用される率であり、
③将来の収益に影響を与える要因の変動予測と
④予測に伴う不確実性
を含むものである。
割引率は、
①DCF法において、
ある将来時点の収益を
現在価値に割り戻す際に使用される率であり、
②還元利回りに含まれる変動予測と、
③予測に伴う不確実性のうち、
④収益見通しにおいて考慮された
連続する複数の期間に発生する純収益や、
復帰価格の変動予測に係るものを除く
ものである。
還元利回りと割引率の違いは、主として、
将来の収益の変動予測を含むか否かという点
である。
還元利回りが用いられる直接還元法は、
①一期間の純収益を還元対象とするため、
②この一期間として価格時点初年度を採用した場合、
③翌年度以降の純収益の変動予測や、
価格の変動予測は
④還元利回りに反映させる必要がある。
一方、DCF法では、
保有期間中の純収益の変動等は
キャッシュフロー表において具体的に明示されるため、
割引率には、
このような将来の収益見通しとして
各期のキャッシュフローに
すでに反映されている変動予測は
含まない。
このような還元利回りと割引率の違いにより、
両者の関係は
「還元利回りR=割引率Y-純収益の変動率g」
と表すことが出来る。
例)現賃料が高額な場合
将来賃料の減額が行われ得ると
予測されるので、
このことを収益還元法の各段階において
次のように反映させることが必要。
①直接還元法
純収益
純収益は「初年度純収益」を用いることが
一般的であるが、
賃料減額改定が予測される場合には、
必要に応じて
「標準化された純収益
(賃料減額を想定して定めた純収益)」
を用いるべき。
還元利回り
「標準化された純収益」を採用する場合には、
還元利回りもそれに対応したものを採用
すべき。
すなわち、
著しく高額な「初年度純収益」に対応する
還元利回りは、
賃料減額予測を反映して高くなるのに対し、
「標準化された純収益」に対応する還元利回りは、
この変動予測を反映しないため
相対的に低くなる。
②DCF法
DCF法の適用にあたっては、
①毎期の純収益が明示されることから、
②純収益の見通しについて
十分な調査を行うことが必要である。
現行賃料が著しく高額な場合には、
テナント入替や更新等によって
現行賃料の減額が行われる時期や、
その程度に係る見通しを、
各期の純収益に適切に反映させるべき。
還元利回りの求め方
還元利回りを求める方法を例示すれば
以下の通りである。
①類似の不動産の取引事例との比較から求める方法。
②借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法。
③土地と建物に係る還元利回りから求める方法。
④割引率との関係から求める方法。
⑤借入金償還余裕率等の活用による方法
⑥金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法。
還元利回りを求める際には、
①比較可能な他の資産の収益性※1や、
②金融市場における運用利回り※2
の動向に留意し、さらに
③対象不動産に係る地域要因、個別的要因の分析を踏まえつつ、
適切に求めることが必要である。
※1、2について
「比較可能な他の資産の収益性や、
金融市場における運用利回りとの密接な関係」
不動産は、
①代替の原則に示されるように、
(代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる)
②不動産を収益獲得の手段として、又は
③資産保全の手段等として考えることにより、
④不動産以外の財
(債権等の金融資産、貴金属等)も
代替材となりえる。
そして、
①不動産と金融資産との比較検討が行われる際には、
②金融資産の利回りに、
③不動産の個別性である投資対象としての
危険性・非流動性・管理の困難性・資産としての安全性
が加味されて、
④投資判断が行われる。
このような構造により、
①不動産の還元利回りは、
②金融資産の利回りの状況如何で上下し得る。
還元利回りの特徴
還元利回りは、
①地方別、
②用途地域別、
③品等別等によって異なる傾向を持つ。
例)田舎と都会
田舎物件は、
都心部に存する物件との比較において、
市場規模が小さいことに起因して
売却時に困難を伴う可能性が高い
(非流動性)、
景気動向等による純収益の変動リスクが
大きい(投資対象としての危険性)
割引率を求める方法
割引率を求める方法を例示すれば
以下の通りである。
①類似の不動産の取引事例との比較から求める方法
②借入金と自己資金に係る割引率から求める方法
③金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
等がある。
一般に投資家は、不動産投資に際し、
①比較可能な他の不動産の収益性だけでなく、
②公社債や株式等の金融資産の収益性
をも考慮の上意思決定を行う。
つまり、
①不動産の価格は代替可能な他の不動産又は
財の価格
と相互に関連して定まるものであるため、
②割引率は、比較可能な他の資産の収益性や
金融市場における運用利回りと
密接な関連がある。
金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法
債権等の金融資産の利回りをもとに、
不動産の個別性を
加味することにより
割引率を求める方法である。
①投資対象としての危険性
不動産は他の金融資産に比べ、
火災地震等の自然災害等の発生や、
土地利用に関する計画、規制の変更
によってその価値が変動する可能性が高いことから、
割引率を高める要因として作用する。
②非流動性
不動産は自然的特性(地理的位置の固定性不動性(非移動性)永続性(不変性)不増性、性個別性(非同質性比代替性)を有し、固定的であって硬直的であるため、
一般に金融資産と比べ流動性が低く、
希望する時期に必ずしも適切な買い手が
見つかるとは限らない→割引率高める要因。
③管理の困難性
不動産の賃貸経営管理については、
賃借人募集・管理だけでなく、
賃料設定改定交渉、建物の維持管理修繕等、
専門的な知識と経験を必要とするものであり、
管理の良否によっては得られる収益が
異なるため、
一般に金融資産と比較し
管理に手間がかかる→割引率高める要因
④資産としての安全性
金融資産は、株式や債権等の発行体の倒産等によって資産価値が大きく損なわれたりするリスクをかけているが、
不動産、とくに土地については
一般に滅失することがないことから、
物理的に安全性の高い資産
ととらえることが出来る→割引率低める要因
借入金と自己資本に係る還元利回り又は割引率から求める方法
借入金に対する利回りは、
市場における利回りを基本に、
実際の資金調達の際に適用される金利等の動向
を勘案して決定する必要がある。
また、
自己資本に対する利回りも、
金融市場における他の金融資産の利回りと
密接な関係があることから、
金融市場を分析して
自己資本に対する利回りの水準
が適正か検討する。
さらに、
金融機関の貸出態度の変化は
借入金割合を左右し、
還元利回りに影響を与える点に留意する。
最終還元利回り
最終還元利回りは、
DCFの復帰価格の算定において、
①保有期間満了の翌年度(n+1期)
等の一期間の純収益から、
②復帰価格を直接求める際に使用される率
である。
最終還元利回りの求め方
①価格時点の還元利回りをもとに
②保有期間満了時点における市場動向並びに
③それ以降の収益の変動予測及び
④予測に伴う不確実性を
反映させて求めることが必要である。
買主の立場で、
n+1期の純収益を
最終還元利回りで還元して
復帰価格を求める場合
①n+1期以降の純収益の変動予測や
予測に伴う不確実性を
②最終還元利回りに的確に反映
させる必要がある。
土地残余法
宅地の類型は、
その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、
更地/建付地/借地権/底地/区分地上権等に分けられる。
更地とは、
建物等の定着物がなく、かつ、
使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。
土地残余法とは
①不動産が敷地と建物等との結合により
構成されている場合において、
②収益還元法以外の手法によって建物等の価格を求め、
③当該不動産に基づく純収益から、
④建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を、
⑤還元利回りで還元する手法をいう。
有効性
対象不動産が更地である場合において、
①当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、
②当該複合不動産に基づく純収益から
建物に帰属する純収益を控除した残余の純収益を
③還元利回りで還元することにより、
収益価格を試算することができる。
土地残余法を適用するに当たっては、
建物等が古い場合には
複合不動産の生み出す純収益から
土地に帰属する純収益が
的確に求められないことが多いので、
建物等は新築か築後間もないもの
でなければならない。
※還元利回りは、
地方別・用途的地域別・品等別等によって
異なる傾向を持つため、
類似の不動産の取引事例から得られる
取引利回りから還元利回りを求める際には、
投資家等の買手の視点に立って、
近隣地域と取引事例の存する地域との
地域要因の相違を格差修正率に反映
する必要がある。
有期還元法とインウッド式
有期還元法
①償却前純収益に
②割引率と
③有限の収益期間とを基礎とした
④複利年金現価率を乗じて
⑤収益価格を求める方法である。
有期還元法は、
対象不動産の純収益が最有効使用の観点からみて
「非永続的」なものと判断される場合に
適用され得る方法である。
インウッド式
有期還元法の一種で、定借のとき有効。
①不動産が敷地と建物等の結合により
構成されている場合において、
②償却前の純収益に、
③割引率と有限の収益期間とを基礎とした
④複利年金現価率を乗じて得た額に、
⑤収益期間満了時点における土地又は建物等の残材価格並びに
⑥建物等の撤去費を
⑦現在価値に換算した額を加減して、収益価格を求める方法。
定期借地権
通常、
旧借地法に基づく借地権や、
借地借家法に基づく普通借地権を前提とする借建の場合、
借地契約が終了しても更新可能性が高いことから、
更新料・建替承諾料等の支払いを前提に、
対象不動産の純収益を「永続的」なものと判断し、
永久還元法によって収益価格を求めることが出来る。
定期借地権の場合
①通常の借家契約のように更新はせず、
②契約期間満了に伴い確定的に契約関係が終了する。
③借地権者は建物を取り壊しのうえ
土地を明け渡す必要がある。
④このような場合は、
永久還元法よりも、
有期還元法を適用することが妥当と考えられる。
原価法
不動産の価格を求める
鑑定評価の基本的な手法は、
①不動産の価格の三面性
(費用性、市場性、収益性)に対応する、
②原価取事比収益還元法に大別される。
③各手法の適用により求められた試算価格を
それぞれ積算比準収益価格という。
原価法は、
①不動産の費用性に着目した手法であり、
②価格時点における
対象不動産の再調達原価(※1)を求め、
③この再調達原価について
減価修正(※2)を行って、
④対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。
再調達原価とは
対象不動産を価格時点において
再調達することを想定した場合において
必要とされる適正な原価の総額
減価修正とは
減価の要因に基づき発生した減価額を
対象不動産の再調達原価から控除して
価格時点における対象不動産の
適正な積算価格を求めること
原価法の有効性は
①対象不動産が
建物又は建物およびその敷地
である場合において、
②再調達原価の把握、
減価修正を適正に行うことが出来るときに有効。
減価修正
原価法は、
①不動産の費用性に着目した手法であり、
②価格時点における
対象不動産の再調達原価を求め、
対象不動産が新築かつ最有効使用の状態
にあることを想定して求めた上限値である。
③この再調達原価について減価修正を行って、
④対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。
原価法の有効性は
①対象不動産が
建物又は建物およびその敷地
である場合において、
②再調達原価の把握
③減価修正を適正に行うことが
出来るときに有効。
対象不動産が土地のみである場合においても、
再調達原価が適切に求めることが
出来るときはこの手法を適用可。
減価修正
①減価の要因に基づき発生した減価額を
対象不動産の再調達原価から控除して
②価格時点における対象不動産の
適正な積算価格を求めることである。
「減価」とは
①新築かつ最有効使用の状態を
前提とする再調達原価を上限として
②そこからの価値の減少を意味する。
減価修正を行うに当たっては、
①減価の要因に着目して
対象不動産を部分的かつ総合的に分析検討し、
②減価額を求めなければならない。
減価額の求め方
減価額の求め方は、
次の二つの方法があり、
原則としてこれらを併用しなければならない。
①耐用年数に基づく方法
この方法は、
毎期一定の法則に従って
減価していくという前提のもと、
対象不動産の経過年数と
経済的残存耐用年数に着目し、
減価額を求める手法である。
耐用年数に基づく方法には、
定額法/定率法等があるが、
これらのうちいずれの方法を用いるかは、
対象不動産の実情に即して決定すべき。
この方法を用いる場合には、
経過年数よりも経済的残存耐用年数に
重点を置いて判断すべき。
なお、
対象不動産が2以上の分別可能な
組成部分により構成されていて、
それぞれの耐用年数又は
経済的残存耐用年数が異なる場合に、
これらをいかに判断して用いるか、また、
耐用年数満了時における残材価格を
いかにみるかについても、
対象不動産の実情に即して決定すべき。
耐用年数に基づく方法の長所は
①鑑定評価主体の恣意が介在しにくく、
②毎期減価を計上することで、
③時の経過による材質の変化、
建築資材の経年劣化などの
④外部観察のみでは発見しにくい減価要因を
把握し、反映させ易いという長所がある。
②観察減価法
対象不動産について、
現実の状況を調査することにより
減価額を求める方法であり、
対象不動産の個別性を反映した、
実態に即した減価額を求めることが出来る。
1 設計設備等の機能性、
2 維持管理の状態
3 補修の状況
4 付近の環境との適合の状態等
5 各減価の要因の実態を調査することにより、
6 減価額を直接求める方法。
観察減価法の長所は
偶発的損傷など個別的な減価の実態を把握し、
反映させやすいという長所がある。
それぞれの長所・短所
これらの方法にはそれぞれ
下記の長所を有するとともに、
①建築資材の経年劣化などの外部観察のみでは
発見しにくい減価要因を把握し、
反映させ易いこと、
②偶発的損傷など個別的な減価の実態を把握し、反映させ易いこと、
下記の短所を有している
①不動産の価値は
必ずしも規則的に減価しない場合があり、
偶発的な、もしくは特別な減価が
認められる場合等
には当該減価を十分に反映することが難しい。
②外部観察のみでは発見しにくい
減価要因の把握が困難であること。
また、鑑定評価主体の主観性に左右される。
したがって、
両者はいわば相互補完の関係にあることから、
両者の長所を生かし、
短所を補うために、
原則として両者を併用すべき。
減価の要因
減価の要因は、
物理的機能的経済的要因に分けられる。
これらの要因は、
①それぞれ独立しているものではなく
②相互に影響を与え合いながら
作用していることに留意しなければならない。
物理的要因
物理的要因としては、
①不動産を使用することによって生ずる
磨滅破損、
②時の経過又は自然的作用によって生ずる
老朽化、並びに
③偶発的な損傷
が挙げられる。
機能的要因
機能的要因としては、
①不動産の機能的陳腐化、すなわち、
②建物と敷地との不適応、
③設計の不良、型式の旧式化、
設備の不足及びその能率の低下等
が挙げられる。
経済的要因
経済的要因とは、
①不動産の経済的不適応、すなわち、
②近隣地域の衰退、
③不動産と代替競争関係にある不動産
④又はその付近の不動産との比較における
⑤市場性の減退等 が挙げられる。
例1)店舗ビル、築15年、修繕履歴なし、近年近隣地域に大型商業店舗進出、売上減少かつ回復見込みなし。
①物理的減価
15年使用されてきたことによって、
外壁や内壁等について老朽化が進行、
共用部分としてのエントランス、階段、廊下等
についても顧客の出入りにより損耗進行
しているかという要因に着目
②機能的減価
店舗ビルとして、
一般的な店舗ビルとの比較における
顧客の回遊性を確保するための
ELVの設置の有無、
各テナントのレイアウト状況、
付近の建物との比較における
顧客誘引性がある建物であるか否か
という要因に着目
③経済的要因
大型店舗への顧客流出が続いていることから、
近隣地域における商業繁華性の衰退や、
代替競争不動産が存する地域との比較における
競争力を維持しているかどうか
という要因に着目。
取引事例比較法
定義
①まず多数の取引事例を収集して
適切な事例の選択を行い、
②これらに係る取引価格に必要に応じて
事情補正時点修正を行い、
③かつ地域要因個別的要因の比較を行って
④求められた価格を比較考量し、
これによって対象不動産の比準価格を求める
手法である。
取事比法の有効性
①近隣地域、同一需給圏内の類似地域において
対象不動産と類似の不動産の取引が
行われている場合
②同一需給圏内の代替競争不動産の取引が
行われている場合
に有効。
取事比法が使えないときは
③不動産取引が
極めて乏しい地域における不動産については
その適用が困難
④取引されることが
極めて少ない(神社仏閣)不動産
についてもその適用が困難
取引事例の選択
①原則として
近隣地域又は同一需給圏内の類似地域
の存する不動産に係るものから
選択するものとし、
②必要やむを得ない場合には
近隣地域の周辺の地域に存するもの
のうちから、
③対象不動産の最有効使用が
標準的使用と異なる場合等には、
同一需給圏内の代替競争不動産
に係るもののうちから選択するものとする。
地域分析とは、
①対象不動産の属する圏域を
広域的に分析して、
②その属する用途的地域(近隣地域)の
標準的使用を判定することをいい、
当該分析の過程で、
近隣地域、
類似地域(近隣地域の特性と類似する特性を有する地域)、及び
同一需給圏(対象不動産と代替関係が成立し、価格形成に相互に影響を及ぼす他の不動産の存する圏域)
を判定することとなる。
取事比法は、対象不動産と
代替関係にある不動産の取引事例に
着目して試算価格を求める手法であるから、
その適用に関しては、
地域分析の結果を踏まえ、
同一需給圏を事例収集の範囲
としなければならない。
多数の取引事例が必要な理由
①この手法は、
市場において発生した取引事例を
その価格判定の基礎とするものであるので、
②多数の取引事例を収集することが必要である。
③なぜなら、豊富に収集された取引事例
の分析検討は
ⅰ個別の取引に内在する特殊な事情を排除し
①多数の取引事例を
相互に比較考量することにより、
②特殊な事情により
割高割安となっている事例を見つけ出し、
③選択を見送ったり、
事情補正することが出来る。
ⅱ時点修正率を把握し、
①多数の取引事例を時系列的に
分析することにより、
②時点修正率を求めることが出来るが、
③これを補完するものとして
売買希望価格/精通者意見等から
地価動向を把握することも有効。
ⅲ価格形成要因の対象不動産への影響の程度を知るうえで欠くことのできないものだから。
①特定の価格形成要因を異にする
多数の取引事例を比較検討することにより、
②当該価格形成要因が
価格に与える影響の程度を把握し、
③地域要因/個別的要因の格差修正率を
判定することが出来る。
売り買い希望価格、精通者意見等の必要性
①近隣地域等の価格水準 及び
②地価の動向を知るうえで、
取引事例を補完するものとして、
十分に活用し得るものである。
標準的な画地を設定して地域要因及び個別的要因の比較を行う方法
取引事例の価格は、
①その不動産の存する地域に係る地域要因及び
②その不動産の個別的要因を
反映しているものであるから、
取事比法の適用に当たっては、
地域要因/個別的要因の比較を行う必要がある。
地域要因個別的要因の比較は、
①対象不動産と事例不動産を直接比較する方法と、
②それぞれの地域における個別的要因が
標準的な土地を設定して行う方法がある。
1.事例不動産が同一需給圏内の類似地域等に存する場合
①類似地域等における標準的土地を設定
②取引事例地と標準的土地との
個別的要因の比較を行って、
③取引価格を類似地域等の標準的土地の価格に補正(標準化補正)
④類似地域等の標準的土地と
近隣地域の標準的土地との地域要因の比較
を行い、
⑤近隣地域の標準的土地の価格を求める。
⑥近隣地域の標準的土地と
対象不動産との個別的要因の比較を行い、
⑦対象不動産の比準価格を求める。
2.事例不動産が近隣地域に存する場合
①近隣地域における標準的土地を設定し、
②取引事例地と標準的土地との
個別的要因の比較を行って、
③取引価格を近隣地域の標準的土地の価格
に補正する(標準化補正)
④当該標準的土地と対象不動産との個別的要因の比較を行い、
⑤対象不動産の比準価格を求める。
この場合において、
各取引事例の価格は個々の不動産の
個別的要因を反映して形成されているもの
であるから、
形状・規模等が標準的な画地に補正するために
個別的要因の比較が必要となる。
また、
地域要因の比較にあたっては、
対象不動産及び各取引事例が存する地域の
標準的使用及び価格水準に対する十分な認識が必要となる。
例)戸建住宅地の大規模敷地に取事比法
個々の不動産の最有効使用は、
一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるが、
対象不動産は、最有効使用が
近隣地域の標準的使用と異なると考えられる。
このような不動産に取事比法を適用する際には
以下の点に留意すべき。
1.事例の選択
対象不動産の最有効使用が
標準的使用と異なる場合においては、
対象不動産の最有効使用について、
対象不動産の個別性のために、
近隣地域の制約の程度が
著しく小さいと認められることが多く、
事例の選択に当たっては、
地域の特性の類似性よりも、
むしろ個々の不動産の用途/規模/品等等の
類似性に着目することが重要となる。
したがって、
このような場合には、
必ずしも近隣地域、類似地域等の
地域概念にとらわれず、
同一需給圏内において
対象不動産と代替競争関係が成立していると
認められる不動産、すなわち
同一需給圏内の代替競争不動産
に係る取引事例を選択すべきである。
2.地域要因/個別的要因の比較
マンション適地の典型的な需要者は
マンション開発を実施するディベロッパーであるので、
各要因の比較に際しては、
特に当該ディベロッパーの重視する
投資採算性に影響する要因
(立地条件、接道条件、規模、形状、法令上許容される容積率等)
に着目し、
格差修正率を求める必要がある。
また、
取引事例として同一需給圏内の代替競争不動産
に係るものを選択する場合において、
価格形成要因に係る対象不動産との比較を行う際には、
個別的要因の比較だけでなく
市場の特性に影響を与えている地域要因
の比較もあわせて行うべきことに留意する。
時点修正
①取引事例等に係る取引等の時点が、
②価格時点と異なることにより、
③その間に価格水準に変動があると
認められる場合には、
④当該取引事例等の価格等を
⑤価格時点の価格等に
修正しなければならない。
この取引事例等の価格等を
価格時点の価格等に修正する作業を
時点修正という。
時点修正の必要性
不動産の価格は
常に変化の過程にあるものであるから、
鑑定評価に当たって採用する事例は、
厳密には価格時点と同一の時点に係るもの
であることが望ましい。
しかし、
現実には同一時点の事例の収集は困難
であるため、
価格時点にできるだけ近い事例を収集し、
必要に応じて時点修正を行うこととなる。
具体的には、
時点修正は、原価法・取事比法・収益還元法及び賃事比法等において採用する
建設事例・取引事例・収益事例・賃貸事例等の時点が
価格時点と異なり、かつ
両時点の間に価格水準の変動が
見られる場合等に必要となる。
時点修正率の求め方
時点修正率は、
価格時点以前に発生した
多数の取引事例について時系列的な分析を行い、さらに
1国民所得の動向
2財政事情/金融情勢
3公共投資の動向
4建築着工の動向
5不動産取引の推移等の社会的経済的要因の変化、
6土地利用の規制/税制等の行政的要因の変化
など、
一般的要因の動向を総合的に勘案して
求めるべきである。
時点修正率は
原則として上記により求めるが、
都道府県地価調査等の資料を
活用するとともに、
適切な取引事例が乏しい場合には、
売り買い希望価格等の動向及び
市場の需給の動向等に関する諸資料
を参考として用いることが出来るものとする。