各論

各 論

不動産鑑定士は、総論において記述したところに従い自己の専門的学識と応用能力に基づき、個々の案件に応じて不動産の鑑定評価を行うべきであるが、具体的な案件に臨んで的確な鑑定評価を期するためには、基本的に以下に掲げる不動産の種別及び類型並びに賃料の種類に応じた鑑定評価の手法等を活用する必要がある。

 

第1章 価格に関する鑑定評価

第1節 土地

Ⅰ 宅地

 

1.更地

 

更地の鑑定評価額は、

①更地並びに配分法が適用できる場合における建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格

②土地残余法による収益価格を関連づけて決定するものとする。

③再調達原価が把握できる場合には、積算価格をも関連づけて決定すべきである。

④当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとする(この手法を開発法という。)。

 

(1)一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格

 

(2)分割利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格

 

なお、配分法及び土地残余法を適用する場合における取引事例及び収益事例は、敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきである。



2.建付地

 

建付地は、建物等と結合して有機的にその効用を発揮しているため、建物等と密接な関連を持つものであり、したがって、建付地の鑑定評価は、建物等と一体として継続使用することが合理的である場合において、その敷地について部分鑑定評価をするものである。

 

建付地の鑑定評価額は、

①更地の価格をもとに当該建付地の更地としての最有効使用との格差、更地化の難易の程度等敷地と建物等との関連性を考慮して求めた価格を標準とし、

②配分法に基づく比準価格

③土地残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。

④ただし、建物及びその敷地としての価格(複合不動産価格)をもとに敷地に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。



3.借地権及び底地

 

借地権及び底地の鑑定評価に当たっては、借地権の価格と底地の価格とは密接に関連し合っているので、以下に述べる諸点を十分に考慮して相互に比較検討すべきである。

 

① 宅地の賃貸借等及び借地権取引の慣行の有無とその成熟の程度は、都市によって異なり、同一都市内においても地域によって異なることもあること。

 

② 借地権の存在は、必ずしも借地権の価格の存在を意味するものではなく、また、借地権取引の慣行について、借地権が単独で取引の対象となっている都市又は地域と、単独で取引の対象となることはないが建物の取引に随伴して取引の対象となっている都市又は地域とがあること。

 

③ 借地権取引の態様

 

ア  借地権が一般に有償で創設され、又は継承される地域であるか否か。

 

イ  借地権の取引が一般に借地権設定者以外の者を対象として行われる地域であるか否か。

 

ウ  堅固建物の所有を目的とする借地権の多い地域であるか否か。

 

エ  借地権に対する権利意識について借地権者側が強い地域であるか否か。

 

オ  一時金の授受が慣行化している地域であるか否か。

 

カ  借地権の譲渡に当たって名義書替料を一般に譲受人又は譲渡人のいずれが負担する地域であるか。

 

④ 借地権の態様

 

ア 創設されたものか継承されたものか。

イ 地上権か賃借権か。

ウ 転借か否か。

エ 堅固の建物の所有を目的とするか、非堅固の建物の所有を目的とするか。

オ 主として居住用建物のためのものか、主として営業用建物のためのものか。

カ 契約期間の定めの有無

キ 特約条項の有無

ク 契約は書面か口頭か。

ケ 登記の有無

コ 定期借地権等(借地借家法第二章第四節に規定する定期借地権等)



(1)借地権

 

① 借地権の価格

 

借地権の価格は、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づき土地を使用収益することにより借地権者に帰属する経済的利益(一時金の授受に基づくものを含む。)を貨幣額で表示したものである。

借地権者に帰属する経済的利益とは、土地を使用収益することによる広範な諸利益を基礎とするものであるが、特に次に掲げるものが中心となる。

 

ア  土地を長期間占有し、独占的に使用収益し得る借地権者の安定的利益

 

イ  借地権の付着している宅地の経済価値に即応した適正な賃料と実際支払賃料との乖離(以下「賃料差額」という。)及びその乖離の持続する期間を基礎にして成り立つ経済的利益の現在価値のうち、慣行的に取引の対象となっている部分

 

② 借地権の鑑定評価

 

借地権の鑑定評価は、借地権の取引慣行の有無及びその成熟の程度によってその手法を異にするものである。

 

ア  借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域の借地権の鑑定評価額は、

 

①借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格、

 

②土地残余法による収益価格、

 

③当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格

 

④借地権取引が慣行として成熟している場合における当該地域の借地権割合により求めた価格を関連づけて決定するものとする。

 

 

この場合においては、次の(ア)から(キ)までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

(ア)将来における賃料の改定の実現性とその程度

 

(イ)借地権の態様及び建物の残存耐用年数

 

(ウ)契約締結の経緯並びに経過した借地期間及び残存期間

 

(エ)契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件

 

(オ)将来見込まれる一時金の額及びこれに関する契約条件

 

(カ)借地権の取引慣行及び底地の取引利回り

 

(キ)当該借地権の存する土地に係る更地としての価格又は建付地としての価格

 

(ク)借地期間満了時の建物等に関する契約内容

 

(ケ)契約期間中に建物の建築及び解体が行われる場合における建物の使用収益が期待できない期間



イ  借地権の取引慣行の成熟の程度の低い地域の借地権の鑑定評価額は、

 

①土地残余法による収益価格、


②当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格

 

③当該借地権の存する土地に係る更地又は建付地としての価格から底地価格を控除して得た価格

を関連づけて決定するものとする。

 



(2)底地

底地の価格は、借地権の付着している宅地について、借地権の価格との相互関連において借地権設定者に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものである。

借地権設定者に帰属する経済的利益とは、

 

①当該宅地の実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益

 

②その期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値をいう。

 

③なお、将来において一時金の授受が見込まれる場合には、当該一時金の経済的利益も借地権設定者に帰属する経済的利益を構成する場合があることに留意すべきである。

 

 

底地の鑑定評価額は、

 

①実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格

 

②比準価格を関連づけて決定するものとする。

 

また、底地を当該借地権者が買い取る場合における底地の鑑定評価に当たっては、当該宅地又は建物及びその敷地が同一所有者に帰属することによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきである。



Ⅳ 宅地見込地

 

宅地見込地の鑑定評価額は、比準価格及び当該宅地見込地について、価格時点において、転換後・造成後の更地を想定し、その価格から通常の造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除し、その額を当該宅地見込地の熟成度に応じて適切に修正して得た価格を関連づけて決定するものとする。

この場合においては、特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

1.当該宅地見込地の宅地化を助長し、又は阻害している行政上の措置又は規制

 

2.付近における公共施設及び公益的施設の整備の動向

 

3.付近における住宅、店舗、工場等の建設の動向

 

4.造成の難易及びその必要の程度

 

5.造成後における宅地としての有効利用度

 

また、熟成度の低い宅地見込地を鑑定評価する場合には、比準価格を標準とし、転換前の土地の種別に基づく価格に宅地となる期待性を加味して得た価格を比較考量して決定するものとする。

 

第2節 建物及びその敷地

 

Ⅰ 自用の建物及びその敷地

自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。

なお、建物の用途を変更し、又は建物の構造等を改造して使用することが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、用途変更等を行った後の経済価値の上昇の程度、必要とされる改造費等を考慮して決定するものとする。

また、建物を取り壊すことが最有効使用と認められる場合における自用の建物及びその敷地の鑑定評価額は、建物の解体による発生材料の価格から取壊し、除去、運搬等に必要な経費を控除した額を、当該敷地の最有効使用に基づく価格に加減して決定するものとする。

 

Ⅱ 貸家及びその敷地

貸家及びその敷地の鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。

(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)

 

この場合において、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

1.将来における賃料の改定の実現性とその程度

 

2.契約に当たって授受された一時金の額及びこれに関する契約条件

 

3.将来見込まれる一時金の額及びこれに関する契約条件

 

4.契約締結の経緯、経過した借家期間及び残存期間並びに建物の残存耐用年数

 

5.貸家及びその敷地の取引慣行並びに取引利回り

 

6.借家の目的、契約の形式、登記の有無、転借か否かの別及び定期建物賃貸借(借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借をいう。)か否かの別

 

7.借家権価格

 

また、貸家及びその敷地を当該借家人が買い取る場合における貸家及びその敷地の鑑定評価に当たっては、当該貸家及びその敷地が自用の建物及びその敷地となることによる市場性の回復等に即応する経済価値の増分が生ずる場合があることに留意すべきである。

 

Ⅲ 借地権付建物

 

1.建物が自用の場合

借地権付建物で、当該建物を借地権者が使用しているものについての鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。

この場合において、前記借地権②ア(ア)から(キ)までに掲げる事項(借地権が定期借地権の場合には、(ア)から(ケ)までに掲げる事項)を総合的に勘案するものとする。

 

2.建物が賃貸されている場合

借地権付建物で、当該建物が賃貸されているものについての鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。

(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)




Ⅳ 区分所有建物及びその敷地

 

1.区分所有建物及びその敷地の価格形成要因

 

区分所有建物及びその敷地における固有の個別的要因を例示すれば次のとおりである。

 (1)区分所有建物が存する一棟の建物及びその敷地に係る個別的要因

 

① 建物に係る要因

ア 建築(新築、増改築等又は移転)の年次

イ 面積、高さ、構造、材質等

ウ 設計、設備等の機能性

エ 施工の質と量

オ 玄関、集会室等の施設の状態

カ 建物の階数

キ 建物の用途及び利用の状態

ク 維持管理の状態

ケ 居住者、店舗等の構成の状態

コ 耐震性、耐火性等建物の性能

サ 有害な物質の使用の有無及びその状態

 

② 敷地に係る要因

ア 敷地の形状及び空地部分の広狭の程度

イ 敷地内施設の状態

ウ 敷地の規模

エ 敷地に関する権利の態様

 

③ 建物及びその敷地に係る要因

 

ア 敷地内における建物及び附属施設の配置の状態

イ 建物と敷地の規模の対応関係

ウ 長期修繕計画の有無及びその良否並びに修繕積立金の額

 

(2)専有部分に係る個別的要因

① 階層及び位置

② 日照、眺望及び景観の良否

③ 室内の仕上げ及び維持管理の状態

④ 専有面積及び間取りの状態

⑤ 隣接不動産等の利用の状態

⑥ エレベーター等の共用施設の利便性の状態

⑦ 敷地に関する権利の態様及び持分

⑧ 区分所有者の管理費等の滞納の有無



2.区分所有建物及びその敷地の鑑定評価

 

(1)専有部分が自用の場合

区分所有建物及びその敷地で、専有部分を区分所有者が使用しているものについての鑑定評価額は、積算価格、比準価格及び収益価格を関連づけて決定するものとする。

区分所有建物及びその敷地の積算価格は、区分所有建物の対象となっている一棟の建物及びその敷地の積算価格を求め、当該積算価格に当該一棟の建物の各階層別及び同一階層内の位置別の効用比により求めた配分率を乗ずることにより求めるものとする。

 

(2)専有部分が賃貸されている場合

区分所有建物及びその敷地で、専有部分が賃貸されているものについての鑑定評価額は、実際実質賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定するものとする。

 

(売主が既に受領した一時金のうち売買等に当たって買主に承継されない部分がある場合には、当該部分の運用益及び償却額を含まないものとする。)




第3節 建物

建物は、その敷地と結合して有機的に効用を発揮するものであり、建物とその敷地とは密接に関連しており、両者は一体として鑑定評価の対象とされるのが通例であるが、鑑定評価の依頼目的及び条件により、建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価又は建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価がある。



Ⅰ 建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における建物のみの鑑定評価

 

この場合の建物の鑑定評価は、その敷地と一体化している状態を前提として、その全体の鑑定評価額の内訳として建物について部分鑑定評価を行うものである。

この場合における建物の鑑定評価額は、積算価格を標準とし、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を比較考量して決定するものとする。

ただし、複合不動産価格をもとに建物に帰属する額を配分して求めた価格を標準として決定することもできる。



Ⅱ 建物及びその敷地が一体として市場性を有しない場合における建物のみの鑑定評価

 

この場合の建物の鑑定評価は、一般に特殊価格を求める場合に該当するものであり、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産のうち建物について、その保存等に主眼をおいて行うものであるが、この場合における建物の鑑定評価額は、積算価格を標準として決定するものとする。



Ⅲ 借家権

 

借家権とは、借地借家法(廃止前の借家法を含む。)が適用される建物の賃借権をいう。

借家権の取引慣行がある場合における借家権の鑑定評価額は、当事者間の個別的事情を考慮して求めた比準価格を標準とし、自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格を比較考量して決定するものとする。借家権割合が求められる場合は、借家権割合により求めた価格をも比較考量するものとする。

この場合において、前記貸家及びその敷地の1.から6.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

さらに、借家権の価格といわれているものには、賃貸人から建物の明渡しの要求を受け、借家人が不随意の立退きに伴い事実上喪失することとなる経済的利益等、賃貸人との関係において個別的な形をとって具体に現れるものがある。

この場合における借家権の鑑定評価額は、当該建物及びその敷地と同程度の代替建物等の賃借の際に必要とされる新規の実際支払賃料と現在の実際支払賃料との差額の一定期間に相当する額に賃料の前払的性格を有する一時金の額等を加えた額並びに自用の建物及びその敷地の価格から貸家及びその敷地の価格を控除し、所要の調整を行って得た価格を関連づけて決定するものとする。

この場合において当事者間の個別的事情を考慮するものとするほか、前記貸家及びその敷地の1.から6.までに掲げる事項を総合的に勘案するものとする。



 

第4節 特定価格を求める場合に適用する鑑定評価の手法

 

Ⅰ 各論第3 章第1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

 

この場合は、基本的に収益還元法のうちDCF法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき、比準価格及び積算価格による検証を行い鑑定評価額を決定する。

 

民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

この場合は、通常の市場公開期間より短い期間で売却されるという前提で、原則として比準価格と収益価格を関連づけ、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。なお、比較可能な事例資料が少ない場合は、通常の方法で正常価格を求めた上で、早期売却に伴う減価を行って鑑定評価額を求めることもできる。

 

会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合

 

この場合は、原則として事業経営に基づく純収益のうち不動産に帰属する純収益に基づく収益価格を標準とし、比準価格を比較考量の上、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。

 

第2章 賃料に関する鑑定評価

 

第1節 宅地

Ⅰ 新規賃料を求める場合

 

1.新規賃料の価格形成要因

新規賃料固有の価格形成要因の主なものは次のとおりである。

(1)当該地域の賃貸借等の契約慣行

(2)一時金の内容等の新規賃料を求める前提となる契約内容

 

2.宅地の正常賃料を求める場合

宅地の正常賃料を求める場合の鑑定評価に当たっては、賃貸借等の契約内容による使用方法に基づく宅地の経済価値に即応する適正な賃料を求めるものとする。

宅地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料、比準賃料及び配分法に準ずる方法に基づく比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合において、純収益を適切に求めることができるときは収益賃料を比較考量して決定するものとする。

また、建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益を適切に求めることができるときには、賃貸事業分析法(建物及びその敷地に係る賃貸事業に基づく純収益をもとに土地に帰属する部分を査定して宅地の試算賃料を求める方法)で得た宅地の試算賃料も比較考量して決定するものとする。

 

 

 

Ⅱ 継続賃料を求める場合

1.継続賃料の価格形成要因

 

継続賃料固有の価格形成要因は、直近合意時点から価格時点までの期間における要因が中心となるが、主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の推移及びその改定の程度

(2)土地価格の推移

(3)公租公課の推移

(4)契約の内容及びそれに関する経緯

(5)賃貸人等又は賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度

 

2.継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合

 

継続中の宅地の賃貸借等の契約に基づく実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、差額配分法による賃料、利回り法による賃料、スライド法による賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合においては、直近合意時点から価格時点までの期間を中心に、次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

(1)近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における宅地の賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料、その改定の程度及びそれらの推移

(2)土地価格の推移

(3)賃料に占める純賃料の推移

(4)底地に対する利回りの推移

(5)公租公課の推移

(6)直近合意時点及び価格時点における新規賃料と現行賃料の乖離の程度

(7)契約の内容及びそれに関する経緯

(8)契約上の経過期間及び直近合意時点から価格時点までの経過期間

(9)賃料改定の経緯

 

なお、賃料の改定が契約期間の満了に伴う更新又は借地権の第三者への譲渡を契機とする場合において、更新料又は名義書替料が支払われるときは、これらの額を総合的に勘案して求めるものとする。

 

 

3.契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合

 

契約上の条件又は使用目的が変更されることに伴い賃料を改定する場合の鑑定評価に当たっては、契約上の条件又は使用目的の変更に伴う宅地及び地上建物の経済価値の増分のうち適切な部分に即応する賃料を前記2.を想定した場合における賃料に加算して決定するものとする。

この場合においては、前記2.に掲げる事項のほか、特に次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。

 

(1)賃貸借等の態様

(2)契約上の条件又は使用目的の変更内容

(3)条件変更承諾料又は増改築承諾料が支払われるときはこれらの額

 

 

第2節 建物及びその敷地

 

Ⅰ 新規賃料を求める場合

 

1.新規賃料の価格形成要因

建物及びその敷地の新規賃料固有の価格形成要因は、宅地の新規賃料を求める場合の鑑定評価に準ずるものとする。

 

2.建物及びその敷地の正常賃料を求める場合

建物及びその敷地の正常賃料を求める場合の鑑定評価に当たっては、賃貸借の契約内容による使用方法に基づく建物及びその敷地の経済価値に即応する賃料を求めるものとする。

建物及びその敷地の正常賃料の鑑定評価額は、積算賃料及び比準賃料を関連づけて決定するものとする。この場合において、純収益を適切に求めることができるときは収益賃料を比較考量して決定するものとする。

なお、建物及びその敷地の一部を対象とする場合の正常賃料の鑑定評価額は、当該建物及びその敷地の全体と当該部分との関連について総合的に比較考量して求めるものとする。

 

Ⅱ 継続賃料を求める場合

建物及びその敷地の継続賃料を求める場合の鑑定評価は、宅地の継続賃料を求める場合の鑑定評価に準ずるものとする。この場合において、各論第2章第1節Ⅱ中「土地価格の推移」とあるのは「土地及び建物価格の推移」と、「底地に対する利回りの推移」とあるのは「建物及びその敷地に対する利回り」と、それぞれ読み替えるものとする。



第3章 証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価

 

第1節 証券化対象不動産の鑑定評価の基本的姿勢

 

証券化対象不動産の範囲

この章において「証券化対象不動産」とは、次のいずれかに該当する不動産取引

の目的である不動産又は不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益権

に係るものを含む。)をいう。

 

(1)資産の流動化に関する法律に規定する資産の流動化並びに投資信託及び投資

法人に関する法律に規定する投資信託に係る不動産取引並びに同法に規定する投資法人が行う不動産取引

 

(2)不動産特定共同事業法に規定する不動産特定共同事業契約に係る不動産取引

 

(3)金融商品取引法第2条第1項第5号、第9号(専ら不動産取引を行うことを

目的として設置された株式会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第2条第1項の規定により株式会社として存続する有限会社を含む。)に係るものに限る。)、第14号及び第16号に規定する有価証券並びに同条第2項第1号、第3号及び第5号の規定により有価証券とみなされる権利の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引

 

証券化対象不動産の鑑定評価は、この章の定めるところに従って行わなければならない。この場合において、鑑定評価報告書にその旨を記載しなければならない。

証券化対象不動産以外の不動産の鑑定評価を行う場合にあっても、投資用の賃貸大型不動産の鑑定評価を行う場合その他の投資家及び購入者等の保護の観点から必要と認められる場合には、この章の定めに準じて、鑑定評価を行うよう努めなければならない。

 

 

不動産鑑定士の責務

(1)不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価の依頼者(以下単に「依頼者」

という。)のみならず広範な投資家等に重大な影響を及ぼすことを考慮するとともに、不動産鑑定評価制度に対する社会的信頼性の確保等について重要な責任を有していることを認識し、証券化対象不動産の鑑定評価の手順について常に最大限の配慮を行いつつ、鑑定評価を行わなければならない。

 

 

(2)不動産鑑定士は、証券化対象不動産の鑑定評価を行う場合にあっては、証券化対象不動産の証券化等が円滑に行なわれるよう配慮しつつ、鑑定評価に係る資料及び手順等を依頼者に説明し、理解を深め、かつ、協力を得るものとする。

また、証券化対象不動産の鑑定評価書については、依頼者及び証券化対象不動産に係る利害関係者その他の者がその内容を容易に把握・比較することができるようにするため、鑑定評価報告書の記載方法等を工夫し、及び鑑定評価に活用した資料等を明示することができるようにするなど説明責任が十分に果たされるものとしなければならない。

 

(3)証券化対象不動産の鑑定評価を複数の不動産鑑定士が共同して行う場合にあっては、それぞれの不動産鑑定士の役割を明確にした上で、常に鑑定評価業務全体の情報を共有するなど密接かつ十分な連携の下、すべての不動産鑑定士一体となって鑑定評価の業務を遂行しなければならない。



 

第2節 証券化対象不動産について未竣工建物等鑑定評価を行う場合の要件

 

証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、総論第5章第1節Ⅰ2.なお書きに定める要件に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。



第3節 処理計画の策定



第4節 証券化対象不動産の個別的要因の調査等




第5節 DCF法の適用等

 

証券化対象不動産の鑑定評価における収益価格を求めるに当たっては、DCF法を適用しなければならない。この場合において、併せて直接還元法を適用することによ

り検証を行うことが適切である。



Ⅱ DCF法の収益費用項目の統一等

(1)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、証券化対象不動産に係る収益又は費用の額につき、連続する複数の期間ごとに、次の表の項目(以下「収益費用項目」という。)に区分して鑑定評価報告書に記載しなければならない(収益費用項目ごとに、記載した数値の積算内訳等を付記するものとする)。この場合において、同表の項目の欄に掲げる項目の定義は、それぞれ同表の定義の欄に掲げる定義のとおりとする。

 

項 目 定 義

運営

 

貸室賃料収入

 

対象不動産の全部又は貸室部分について賃貸又は運営委託をすることにより経常的に得られる収入(満室想定)

 

共益費収入

対象不動産の維持管理・運営において経常的に要する費用(電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用を含む)のうち、共用部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定)

 

 

水道光熱費収入

対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費用のうち、貸室部分に係るものとして賃借人との契約により徴収する収入(満室想定)

 

駐車場収入

対象不動産に附属する駐車場をテナント等に賃貸することによって得られる収入及び駐車場を時間貸しすることによって得られる収入

 

その他収入

その他看板、アンテナ、自動販売機等の施設設置料、礼金・更新料等の返還を要しない一時金等の収入

 

空室等損失

各収入について空室や入替期間等の発生予測に基づく減少分

 

貸倒れ損失

各収入について貸倒れの発生予測に基づく減少分

 

 

 

維持管理費

建物・設備管理、保安警備、清掃等対象不動産の維持・管理のために経常的に要する費用

 

水道光熱費

対象不動産の運営において電気・水道・ガス・地域冷暖房熱源等に要する費

 

修繕費

対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の通常の維持管理のため、又は一部がき損した建物、設備等につきその原状を回復するために経常的に要する費用

 

 

プロパティマネジメントフィー

対象不動産象の管理業務に係る経費

 

 

テナント募集費用等

新規テナントの募集に際して行われる仲介業務や広告宣伝等に要する費用及びテナントの賃貸借契約の更新や再契約業務に要する費用等

 

公租公課

固定資産税(土地・建物・償却資産)、都市計画税(土地・建物)

 

損害保険料

対象不動産及び附属設備に係る火災保険、対象不動産の欠陥や管理上の事故による第三者等の損害を担保する賠償責任保険等の料金

 

 

その他費用

その他支払地代、道路占用使用料等の費用

 

運営純収益

運営収益から運営費用を控除して得た額

 

一時金の運用益

預り金的性格を有する保証金等の運用益

 

資本的支出

対象不動産に係る建物、設備等の修理、改良等のために支出した金額のうち当該建物、設備等の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する支出

 

純収益

運営純収益に一時金の運用益を加算し資本的支出を控除した額

 

(2)DCF法の適用により収益価格を求めるに当たっては、収益費用項目及びそ

の定義について依頼者に提示・説明した上で必要な資料を入手するとともに、収益費用項目ごとに定められた定義に該当していることを確認しなければならない。

 

(3)DCF法を適用する際の鑑定評価報告書の様式の例は、別表2のとおりとす

る。証券化対象不動産の用途、類型等に応じて、実務面での適合を工夫する場合は、同表2に必要な修正を加えるものとする。

 

 

第7章 鑑定評価の方式

 

 

 

不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式がある。

 

原価方式は不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達をいう。)に要する原価に着目して、比較方式は不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着目して、収益方式は不動産から生み出される収益に着目して、それぞれ不動産の価格又は賃料を求めようとするものである。

 

不動産の鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類される。それぞれの鑑定評価の手法の適用により求められた価格又は賃料を試算価格又は試算賃料という。

 

 

 

第1節 価格を求める鑑定評価の手法

 

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別され、このほかこれら三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。

 

 

 

Ⅰ 試算価格を求める場合の一般的留意事項

 

1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連

 

 

 

価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。

 

 

 

2.事例の収集及び選択

 

鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当たって必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という。)がある。取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない。

 

取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。

 

 

 

(1)次の不動産に係るものであること

 

 ① 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産

 

 

② 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。

 

 

 

(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

 

 

 

(3)時点修正をすることが可能なものであること。

 

 

 

(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

 

 

 

3.事情補正

 

 

 

取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。

 

 

 

(1)現実に成立した取引事例等には、不動産市場の特性、取引等における当事者双方の能力の多様性と特別の動機により売り急ぎ、買い進み等の特殊な事情が存在する場合もあるので、取引事例等がどのような条件の下で成立したものであるかを資料の分析に当たり十分に調査しなければならない。

 

 

 

(2)特殊な事情とは、正常価格を求める場合には、正常価格の前提となる現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる諸条件を欠くに至らしめる事情のことである。

 

 

 

4.時点修正

 

 

取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正しなければならない。

 

 

5.地域要因の比較及び個別的要因の比較

 

取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産の個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。

 

 

 

Ⅱ 原価法

 

1.意義

 

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。

 

原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。

 

 

2.適用方法

 

(1)再調達原価の意義 

 

再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。

 

なお、建設資材、工法等の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には、対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなすものとする。

 

 

 

(2)再調達原価を求める方法

 

再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。

 

なお、置換原価は、対象不動産と同等の有用性を持つ不動産を新たに調達することを想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求める。

 

これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。

 

 

 

① 土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。

 

なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。

 

 

 

② 建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるものとする。

 

 

 

③ 再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。

 

 

 

ア 直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。

 

直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものとする。

 

また、対象不動産の素材となった土地(素地)の価格並びに実際の造成又は建設に要する直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求めることができる。

 

 

 

イ 間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法である。

 

間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとする。



3.減価修正

 

減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。

 

減価修正を行うに当たっては、減価の要因に着目して対象不動産を部分的かつ総合的に分析検討し、減価額を求めなければならない。

 

 

 

(1)減価の要因

 

減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。

 

これらの要因は、それぞれ独立しているものではなく、相互に関連し、影響を与え合いながら作用していることに留意しなければならない。

 

 

 

① 物理的要因

 

物理的要因としては、不動産を使用することによって生ずる摩滅及び破損、時の経過又は自然的作用によって生ずる老朽化並びに偶発的な損傷があげられる。

 

② 機能的要因

 

機能的要因としては、不動産の機能的陳腐化、すなわち、建物と敷地との不適応、設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等があげられる。

 

 

 

③ 経済的要因

 

経済的要因としては、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地域の衰退、不動産とその付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動産又は付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられる。



(2)減価修正の方法

 

減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。

 

① 耐用年数に基づく方法

 

耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。

 

経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じてその効用が十分に持続すると考えられる期間をいい、この方法の適用に当たり特に重視されるべきものである。

 

耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用いるかは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。

 

なお、対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経過年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判断して用いるか、また、耐用年数満了時における残材価額をいかにみるかについても、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。



② 観察減価法

 

観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求める方法である。

 

観察減価法の適用においては、対象不動産に係る個別分析の結果を踏まえた代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等を適切に反映すべきである。




Ⅲ 取引事例比較法

 

1.意義

 

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。

 

取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。

 

 

 

2.適用方法

 

(1)事例の収集及び選択

 

取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、多数の取引事例を収集することが必要である。

 

取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならない。

 

 

 

① 取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

 

 

 

② 時点修正をすることが可能なものであること。

 

 

 

③ 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。




(2)事情補正及び時点修正

 

取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められるときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。

 

時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきである。

 

 

 

(3)地域要因の比較及び個別的要因の比較

 

取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとする。

 

また、このほか地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある。




(4)配分法

 

 

 

取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。)。




Ⅳ 収益還元法

 

 

 

1.意義

 

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。

 

収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。

 

また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。

 

なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。




2.収益価格を求める方法

 

 

 

収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF法」という。))がある。

 

これらの方法は、基本的には次の式により表される。

 

 

 

(1)直接還元法

 

P =

 

P:求める不動産の収益価格

 

a:一期間の純収益

 

R:還元利回り

 

 

 

(2)DCF法

 

P =

 

P :求める不動産の収益価格

 

ak:毎期の純収益

 

Y :割引率

 

n :保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)

 

PR:復帰価格

 

復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、

 

基本的には次の式により表される。

 

P =

 

an + 1:n+1期の純収益

 

Rn :保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)




3.適用方法

 

 

 

(1)純収益

 

 

 

① 純収益の意義

 

純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。

 

 

 

② 純収益の算定

 

 

 

対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。

 

なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。

 

純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。

 

特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。

 

なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。





ア 総収益の算定及び留意点

 

 

 

(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合

 

 

 

賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。

 

賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。

 

なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。




(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合

 

 

 

対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。




イ 総費用の算定及び留意点

 

賃貸用不動産の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。

賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。

 

なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。




(2)還元利回り及び割引率

 

 

 

① 還元利回り及び割引率の意義

 

還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。

 

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

 

割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。

 

 

 

② 還元利回り及び割引率の算定

 

 

 

ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点

 

還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。

 

さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。




イ 還元利回りを求める方法

 

 

 

還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。

 

 

 

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

 

この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回りをもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。

 

 

 

(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

 

この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回りを各々の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

 

 

(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法

 

この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

 

 

(エ)割引率との関係から求める方法

 

この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。




ウ 割引率を求める方法

 

割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。

 

 

 

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

 

この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる割引率をもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。

 

 

 

(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法

 

この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各割引率を各々の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

 

 

(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

 

この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。




(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方

 

直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。




第2節 賃料を求める鑑定評価の手法

 

 

 

不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。

 

 

 

Ⅰ 賃料を求める場合の一般的留意事項

 

 

 

賃料の鑑定評価は、対象不動産について、賃料の算定の期間に対応して、実質賃料を求めることを原則とし、賃料の算定の期間及び支払いの時期に係る条件並びに権利金、敷金、保証金等の一時金の授受に関する条件が付されて支払賃料を求めることを依頼された場合には、実質賃料とともに、その一部である支払賃料を求めることができるものとする。

 

 

 

1.実質賃料と支払賃料

 

 

 

実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされる諸経費等(以下「必要諸経費等」という。)から成り立つものである。

 

支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償却額と併せて実質賃料を構成するものである。

 

なお、慣行上、建物及びその敷地の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費等の名目で支払われる場合もあるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合があることに留意する必要がある。




2.支払賃料の求め方

 

契約に当たって一時金が授受される場合における支払賃料は、実質賃料から、当該一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額並びに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする。

 

なお、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求めるものとする。

 

運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。




3.賃料の算定の期間

 

鑑定評価によって求める賃料の算定の期間は、原則として、宅地並びに建物及びその敷地の賃料にあっては1月を単位とし、その他の土地にあっては1年を単位とするものとする。




4.継続賃料を求める場合

 

継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。




Ⅱ 新規賃料を求める鑑定評価の手法

 

 

 

1.積算法

 

 

 

(1)意義

 

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。)。

 

積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場合に有効である。




(2)適用方法

 

① 基礎価格

 

基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。

 

 

 

② 期待利回り

 

期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。

 

期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意すべきである。

 

 

 

③ 必要諸経費等

 

不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられる。

 

 

 

減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)

 

イ 維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)

 

ウ 公租公課(固定資産税、都市計画税等)

 

エ 損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)

 

オ 貸倒れ準備費

 

カ 空室等による損失相当額




2.賃貸事例比較法

 

 

 

(1)意義

 

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るすべての経済的対価をいう。)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を比準賃料という。)。

 

賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等が行われている場合に有効である。

 

 

 

(2)適用方法

 

 

 

① 事例の収集及び選択

 

賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の収集及び選択に準ずるものとする。この場合において、賃貸借等の契約の内容について類似性を有するものを選択すべきことに留意しなければならない。

 

 

 

② 事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較については、取引事例比較法の場合に準ずるものとする。




3.収益分析法

 

(1)意義

 

収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを収益純賃料という。)を求め、これに必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を収益賃料という。)。

 

収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求め得る場合に有効である。

 

 

 

(2)適用方法

 

① 収益純賃料の算定

 

収益純賃料の算定については、収益還元法における純収益の算定に準ずる

 

ものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意しなければならな

 

い。

 

 

 

② 収益賃料を求める手法

 

収益賃料は、収益純賃料の額に賃貸借等に当たって賃料に含まれる必要諸

 

経費等を加算することによって求めるものとする。

 

なお、一般企業経営に基づく総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費

 

等を含む賃料相当額を収益賃料として直接求めることができる場合もある。




Ⅲ 継続賃料を求める鑑定評価の手法

 

 

 

1.差額配分法

 

 

 

(1)意義

 

 

 

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃

 

料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約

 

の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰

 

属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減し

 

て試算賃料を求める手法である。




(2)適用方法

 

 

 

① 対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想

 

定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとす

 

る。

 

対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時

 

金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等

 

の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。

 

 

 

② 賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意

 

しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域

 

的に分析し、さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関

 

する分析を行うことにより適切に判断するものとする。

 

 

 

2.利回り法

 

 

 

(1)意義

 

 

 

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加

 

算して試算賃料を求める手法である。

 

 

 

(2)適用方法

 

① 基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとす

 

る。

 

② 継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合

 

を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締

 

結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域

 

若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃

 

貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における

 

利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。

 

 

 

3.スライド法

 

(1)意義

 

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格

 

時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

 

なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切

 

な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として

 

直接求めることができるものとする。

 

 

 

(2)適用方法

 

① 変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化

 

に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意し

 

つつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指

 

数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとす

 

る。

 

② 必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。

 

 

 

4.賃貸事例比較法

 

賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める

 

手法である。試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比

 

較を適切に行うことに留意しなければならない。



7

第7章 鑑定評価の方式

 

不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式及び収益方式の三方式がある。

原価方式は不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達をいう。)に要する原価に着目して、比較方式は不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着目して、収益方式は不動産から生み出される収益に着目して、それぞれ不動産の価格又は賃料を求めようとするものである。

不動産の鑑定評価の方式は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類される。それぞれの鑑定評価の手法の適用により求められた価格又は賃料を試算価格又は試算賃料という。

 

第1節 価格を求める鑑定評価の手法

不動産の価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法及び収益還元法に大別され、このほかこれら三手法の考え方を活用した開発法等の手法がある。

 

Ⅰ 試算価格を求める場合の一般的留意事項

1.一般的要因と鑑定評価の各手法の適用との関連

 

価格形成要因のうち一般的要因は、不動産の価格形成全般に影響を与えるものであり、鑑定評価手法の適用における各手順において常に考慮されるべきものであり、価格判定の妥当性を検討するために活用しなければならない。

 

2.事例の収集及び選択

鑑定評価の各手法の適用に当たって必要とされる事例には、原価法の適用に当たって必要な建設事例、取引事例比較法の適用に当たって必要な取引事例及び収益還元法の適用に当たって必要な収益事例(以下「取引事例等」という。)がある。取引事例等は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択すべきであり、投機的取引であると認められる事例等適正さを欠くものであってはならない。

取引事例等は、次の要件の全部を備えるもののうちから選択するものとする。

 

(1)次の不動産に係るものであること

 

① 近隣地域又は同一需給圏内の類似地域若しくは必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域(以下「同一需給圏内の類似地域等」という。)に存する不動産

 

② 対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等において同一需給圏内に存し対象不動産と代替、競争等の関係が成立していると認められる不動産(以下「同一需給圏内の代替競争不動産」という。)。

 

(2)取引事例等に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

 

(3)時点修正をすることが可能なものであること。

 

(4)地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。

 

3.事情補正

 

取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。

 

(1)現実に成立した取引事例等には、不動産市場の特性、取引等における当事者双方の能力の多様性と特別の動機により売り急ぎ、買い進み等の特殊な事情が存在する場合もあるので、取引事例等がどのような条件の下で成立したものであるかを資料の分析に当たり十分に調査しなければならない。

 

(2)特殊な事情とは、正常価格を求める場合には、正常価格の前提となる現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる諸条件を欠くに至らしめる事情のことである。

 

4.時点修正

 

取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正しなければならない。

 

5.地域要因の比較及び個別的要因の比較

 

取引事例等の価格等は、その不動産の存する用途的地域に係る地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例等に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例等に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産の個別的要因の比較をそれぞれ行う必要がある。

 

Ⅱ 原価法

 

1.意義

 

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を積算価格という。)。

原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。

 

2.適用方法

 

(1)再調達原価の意義

 

再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額をいう。

なお、建設資材、工法等の変遷により、対象不動産の再調達原価を求めることが困難な場合には、対象不動産と同等の有用性を持つものに置き換えて求めた原価(置換原価)を再調達原価とみなすものとする。

 

(2)再調達原価を求める方法

 

再調達原価は、建設請負により、請負者が発注者に対して直ちに使用可能な状態で引き渡す通常の場合を想定し、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求めるものとする。

なお、置換原価は、対象不動産と同等の有用性を持つ不動産を新たに調達することを想定した場合に必要とされる原価の総額であり、発注者が請負者に対して支払う標準的な建設費に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して求める。

これらの場合における通常の付帯費用には、建物引渡しまでに発注者が負担する通常の資金調達費用や標準的な開発リスク相当額等が含まれる場合があることに留意する必要がある。

 

① 土地の再調達原価は、その素材となる土地の標準的な取得原価に当該土地の標準的な造成費と発注者が直接負担すべき通常の付帯費用とを加算して求めるものとする。

なお、土地についての原価法の適用において、宅地造成直後の対象地の地域要因と価格時点における対象地の地域要因とを比較し、公共施設、利便施設等の整備及び住宅等の建設等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。

 

② 建物及びその敷地の再調達原価は、まず、土地の再調達原価(再調達原価が把握できない既成市街地における土地にあっては取引事例比較法及び収益還元法によって求めた更地の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額)又は借地権の価格に発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算した額を求め、この価格に建物の再調達原価を加算して求めるものとする。

 

③ 再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。

 

ア 直接法は、対象不動産について直接的に再調達原価を求める方法である。

直接法は、対象不動産について、使用資材の種別、品等及び数量並びに所要労働の種別、時間等を調査し、対象不動産の存する地域の価格時点における単価を基礎とした直接工事費を積算し、これに間接工事費及び請負者の適正な利益を含む一般管理費等を加えて標準的な建設費を求め、さらに発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を加算して再調達原価を求めるものとする。

また、対象不動産の素材となった土地(素地)の価格並びに実際の造成又は建設に要する直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)が判明している場合には、これらの明細を分析して適切に補正し、かつ、必要に応じて時点修正を行って再調達原価を求めることができる。

 

イ 間接法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産から間接的に対象不動産の再調達原価を求める方法である。

間接法は、当該類似の不動産等について、素地の価格やその実際の造成又は建設に要した直接工事費、間接工事費、請負者の適正な利益を含む一般管理費等及び発注者が直接負担した付帯費用の額並びにこれらの明細(種別、品等、数量、時間、単価等)を明確に把握できる場合に、これらの明細を分析して適切に補正し、必要に応じて時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って、対象不動産の再調達原価を求めるものとする。

 

3.減価修正

 

減価修正の目的は、減価の要因に基づき発生した減価額を対象不動産の再調達原価から控除して価格時点における対象不動産の適正な積算価格を求めることである。

減価修正を行うに当たっては、減価の要因に着目して対象不動産を部分的かつ総合的に分析検討し、減価額を求めなければならない。

 

(1)減価の要因

減価の要因は、物理的要因、機能的要因及び経済的要因に分けられる。

これらの要因は、それぞれ独立しているものではなく、相互に関連し、影響を与え合いながら作用していることに留意しなければならない。

 

① 物理的要因

物理的要因としては、不動産を使用することによって生ずる摩滅及び破損、時の経過又は自然的作用によって生ずる老朽化並びに偶発的な損傷があげられる。

 

② 機能的要因

機能的要因としては、不動産の機能的陳腐化、すなわち、建物と敷地との不適応、設計の不良、型式の旧式化、設備の不足及びその能率の低下等があげられる。

 

③ 経済的要因

経済的要因としては、不動産の経済的不適応、すなわち、近隣地域の衰退、不動産とその付近の環境との不適合、不動産と代替、競争等の関係にある不動産又は付近の不動産との比較における市場性の減退等があげられる。



(2)減価修正の方法

減価額を求めるには、次の二つの方法があり、これらを併用するものとする。

 

① 耐用年数に基づく方法

耐用年数に基づく方法は、対象不動産の価格時点における経過年数及び経済的残存耐用年数の和として把握される耐用年数を基礎として減価額を把握する方法である。

経済的残存耐用年数とは、価格時点において、対象不動産の用途や利用状況に即し、物理的要因及び機能的要因に照らした劣化の程度並びに経済的要因に照らした市場競争力の程度に応じてその効用が十分に持続すると考えられる期間をいい、この方法の適用に当たり特に重視されるべきものである。

耐用年数に基づく方法には、定額法、定率法等があるが、これらのうちいずれの方法を用いるかは、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。

なお、対象不動産が二以上の分別可能な組成部分により構成されていて、それぞれの経過年数又は経済的残存耐用年数が異なる場合に、これらをいかに判断して用いるか、また、耐用年数満了時における残材価額をいかにみるかについても、対象不動産の用途や利用状況に即して決定すべきである。

 

② 観察減価法

観察減価法は、対象不動産について、設計、設備等の機能性、維持管理の状態、補修の状況、付近の環境との適合の状態等各減価の要因の実態を調査することにより、減価額を直接求める方法である。

観察減価法の適用においては、対象不動産に係る個別分析の結果を踏まえた代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度等を適切に反映すべきである。



Ⅲ 取引事例比較法

1.意義

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という。)。

取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。

 

2.適用方法

(1)事例の収集及び選択

取引事例比較法は、市場において発生した取引事例を価格判定の基礎とするものであるので、多数の取引事例を収集することが必要である。

取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから、対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なる場合等には、同一需給圏内の代替競争不動産に係るもののうちから選択するものとするほか、次の要件の全部を備えなければならない。

 

① 取引事情が正常なものと認められるものであること又は正常なものに補正することができるものであること。

 

② 時点修正をすることが可能なものであること。

 

③ 地域要因の比較及び個別的要因の比較が可能なものであること。



(2)事情補正及び時点修正

取引事例が特殊な事情を含み、これが当該事例に係る取引価格に影響していると認められるときは、適切な補正を行い、取引事例に係る取引の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準の変動があると認められるときは、当該事例の価格を価格時点の価格に修正しなければならない。

時点修正に当たっては、事例に係る不動産の存する用途的地域又は当該地域と相似の価格変動過程を経たと認められる類似の地域における土地又は建物の価格の変動率を求め、これにより取引価格を修正すべきである。

 

(3)地域要因の比較及び個別的要因の比較

取引価格は、取引事例に係る不動産の存する用途的地域の地域要因及び当該不動産の個別的要因を反映しているものであるから、取引事例に係る不動産が同一需給圏内の類似地域等に存するもの又は同一需給圏内の代替競争不動産である場合においては、近隣地域と当該事例に係る不動産の存する地域との地域要因の比較及び対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較を、取引事例に係る不動産が近隣地域に存するものである場合においては、対象不動産と当該事例に係る不動産との個別的要因の比較をそれぞれ行うものとする。

また、このほか地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地を設定して行う方法がある。



(4)配分法

 

取引事例が対象不動産と同類型の不動産の部分を内包して複合的に構成されている異類型の不動産に係る場合においては、当該取引事例の取引価格から対象不動産と同類型の不動産以外の部分の価格が取引価格等により判明しているときは、その価格を控除し、又は当該取引事例について各構成部分の価格の割合が取引価格、新規投資等により判明しているときは、当該事例の取引価格に対象不動産と同類型の不動産の部分に係る構成割合を乗じて、対象不動産の類型に係る事例資料を求めるものとする(この方法を配分法という。)。



Ⅳ 収益還元法

 

1.意義

 

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という。)。

収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。

また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。

なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。



2.収益価格を求める方法

 

収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(以下「直接還元法」という。)と、連続する複数の期間に発生する純収益及び復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(Discounted Cash Flow 法(以下「DCF法」という。))がある。

これらの方法は、基本的には次の式により表される。

 

(1)直接還元法

P =

P:求める不動産の収益価格

a:一期間の純収益

R:還元利回り

 

(2)DCF法

P =

P :求める不動産の収益価格

ak:毎期の純収益

Y :割引率

n :保有期間(売却を想定しない場合には分析期間。以下同じ。)

PR:復帰価格

復帰価格とは、保有期間の満了時点における対象不動産の価格をいい、

基本的には次の式により表される。

P =

an + 1:n+1期の純収益

Rn :保有期間の満了時点における還元利回り(最終還元利回り)



3.適用方法

 

(1)純収益

 

① 純収益の意義

純収益とは、不動産に帰属する適正な収益をいい、収益目的のために用いられている不動産とこれに関与する資本、労働及び経営(組織)の諸要素の結合によって生ずる総収益から、資本、労働及び経営(組織)の総収益に対する貢献度に応じた分配分を控除した残余の部分をいう。

 

② 純収益の算定

 

対象不動産の純収益は、一般に1年を単位として総収益から総費用を控除して求めるものとする。また、純収益は、永続的なものと非永続的なもの、償却前のものと償却後のもの等、総収益及び総費用の把握の仕方により異なるものであり、それぞれ収益価格を求める方法及び還元利回り又は割引率を求める方法とも密接な関連があることに留意する必要がある。

なお、直接還元法における純収益は、対象不動産の初年度の純収益を採用する場合と標準化された純収益を採用する場合があることに留意しなければならない。

純収益の算定に当たっては、対象不動産からの総収益及びこれに係る総費用を直接的に把握し、それぞれの項目の細部について過去の推移及び将来の動向を慎重に分析して、対象不動産の純収益を適切に求めるべきである。この場合において収益増加の見通しについては、特に予測の限界を見極めなければならない。

特にDCF法の適用に当たっては、毎期の純収益及び復帰価格並びにその発生時期が明示されることから、純収益の見通しについて十分な調査を行うことが必要である。

なお、直接還元法の適用に当たって、対象不動産の純収益を近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等に存する対象不動産と類似の不動産又は同一需給圏内の代替競争不動産の純収益によって間接的に求める場合には、それぞれの地域要因の比較及び個別的要因の比較を行い、当該純収益について適切に補正することが必要である。




ア 総収益の算定及び留意点

 

(ア)対象不動産が賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産である場合

 

賃貸用不動産の総収益は、一般に、支払賃料に預り金的性格を有する保証金等の運用益、賃料の前払的性格を有する権利金等の運用益及び償却額並びに駐車場使用料等のその他収入を加えた額(以下「支払賃料等」という。)とする。賃貸用不動産についてのDCF法の適用に当たっては、特に賃貸借契約の内容並びに賃料及び貸室の稼動率の毎期の変動に留意しなければならない。

賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益は、一般に、売上高とする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とすることができる。

なお、賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産の総収益の算定及び賃貸以外の事業の用に供する不動産の総収益の算定に当たっては、当該不動産が供されている事業について、その現状と動向に十分留意しなければならない。



(イ)対象不動産が更地である場合において、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合

 

対象不動産に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定し、当該複合不動産が生み出すであろう総収益を適切に求めるものとする。



イ 総費用の算定及び留意点

賃貸用不動産(ア(イ)の複合不動産を想定する場合を含む。)の総費用は、減価償却費(償却前の純収益を求める場合には、計上しない。)、維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)、公租公課(固定資産税、都市計画税等)、損害保険料等の諸経費等を加算して求めるものとする。賃貸以外の事業の用に供する不動産の総費用は、売上原価、販売費及び一般管理費等を加算して求めるものとする。ただし、賃貸以外の事業の用に供する不動産であっても、売上高のうち不動産に帰属する部分をもとに求めた支払賃料等相当額、又は、賃貸に供することを想定することができる場合における支払賃料等をもって総収益とした場合、総費用は上記賃貸用不動産の算定の例によるものとする。

なお、DCF法の適用に当たっては、特に保有期間中における大規模修繕費等の費用の発生時期に留意しなければならない。



(2)還元利回り及び割引率

 

① 還元利回り及び割引率の意義

 

還元利回り及び割引率は、共に不動産の収益性を表し、収益価格を求めるために用いるものであるが、基本的には次のような違いがある。

還元利回りは、直接還元法の収益価格及びDCF法の復帰価格の算定において、一期間の純収益から対象不動産の価格を直接求める際に使用される率であり、将来の収益に影響を与える要因の変動予測と予測に伴う不確実性を含むものである。

割引率は、DCF法において、ある将来時点の収益を現在時点の価値に割り戻す際に使用される率であり、還元利回りに含まれる変動予測と予測に伴う不確実性のうち、収益見通しにおいて考慮された連続する複数の期間に発生する純収益や復帰価格の変動予測に係るものを除くものである。

 

② 還元利回り及び割引率の算定

 

ア 還元利回り及び割引率を求める際の留意点

 

還元利回り及び割引率は、共に比較可能な他の資産の収益性や金融市場における運用利回りと密接な関連があるので、その動向に留意しなければならない。

さらに、還元利回り及び割引率は、地方別、用途的地域別、品等別等によって異なる傾向を持つため、対象不動産に係る地域要因及び個別的要因の分析を踏まえつつ適切に求めることが必要である。



イ 還元利回りを求める方法

 

還元利回りを求める方法を例示すると次のとおりである。

 

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる利回りをもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。

 

(イ)借入金と自己資金に係る還元利回りから求める方法

この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各還元利回りを各々の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

(ウ)土地と建物に係る還元利回りから求める方法

この方法は、対象不動産が建物及びその敷地である場合に、その物理的な構成要素(土地及び建物)に係る各還元利回りを各々の価格の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

(エ)割引率との関係から求める方法

この方法は、割引率をもとに対象不動産の純収益の変動率を考慮して求めるものである。



ウ 割引率を求める方法

割引率を求める方法を例示すると次のとおりである。

 

(ア)類似の不動産の取引事例との比較から求める方法

この方法は、対象不動産と類似の不動産の取引事例から求められる割引率をもとに、取引時点及び取引事情並びに地域要因及び個別的要因の違いに応じた補正を行うことにより求めるものである。

 

(イ)借入金と自己資金に係る割引率から求める方法

この方法は、対象不動産の取得の際の資金調達上の構成要素(借入金及び自己資金)に係る各割引率を各々の構成割合により加重平均して求めるものである。

 

(ウ)金融資産の利回りに不動産の個別性を加味して求める方法

この方法は、債券等の金融資産の利回りをもとに、対象不動産の投資対象としての危険性、非流動性、管理の困難性、資産としての安全性等の個別性を加味することにより求めるものである。



(3)直接還元法及びDCF法の適用のあり方

直接還元法又はDCF法のいずれの方法を適用するかについては、収集可能な資料の範囲、対象不動産の類型及び依頼目的に即して適切に選択することが必要である。



第2節 賃料を求める鑑定評価の手法

 

不動産の賃料を求める鑑定評価の手法は、新規賃料にあっては積算法、賃貸事例比較法、収益分析法等があり、継続賃料にあっては差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法等がある。

 

Ⅰ 賃料を求める場合の一般的留意事項

 

賃料の鑑定評価は、対象不動産について、賃料の算定の期間に対応して、実質賃料を求めることを原則とし、賃料の算定の期間及び支払いの時期に係る条件並びに権利金、敷金、保証金等の一時金の授受に関する条件が付されて支払賃料を求めることを依頼された場合には、実質賃料とともに、その一部である支払賃料を求めることができるものとする。

 

1.実質賃料と支払賃料

 

実質賃料とは、賃料の種類の如何を問わず賃貸人等に支払われる賃料の算定の期間に対応する適正なすべての経済的対価をいい、純賃料及び不動産の賃貸借等を継続するために通常必要とされる諸経費等(以下「必要諸経費等」という。)から成り立つものである。

支払賃料とは、各支払時期に支払われる賃料をいい、契約に当たって、権利金、敷金、保証金等の一時金が授受される場合においては、当該一時金の運用益及び償却額と併せて実質賃料を構成するものである。

なお、慣行上、建物及びその敷地の一部の賃貸借に当たって、水道光熱費、清掃・衛生費、冷暖房費等がいわゆる付加使用料、共益費等の名目で支払われる場合もあるが、これらのうちには実質的に賃料に相当する部分が含まれている場合があることに留意する必要がある。



2.支払賃料の求め方

契約に当たって一時金が授受される場合における支払賃料は、実質賃料から、当該一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額並びに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求めるものとする。

なお、賃料の前払的性格を有する一時金の運用益及び償却額については、対象不動産の賃貸借等の持続する期間の効用の変化等に着目し、実態に応じて適切に求めるものとする。

運用利回りは、賃貸借等の契約に当たって授受される一時金の性格、賃貸借等の契約内容並びに対象不動産の種類及び性格等の相違に応じて、当該不動産の期待利回り、不動産の取引利回り、長期預金の金利国債及び公社債利回り、金融機関の貸出金利等を比較考量して決定するものとする。



3.賃料の算定の期間

鑑定評価によって求める賃料の算定の期間は、原則として、宅地並びに建物及びその敷地の賃料にあっては1月を単位とし、その他の土地にあっては1年を単位とするものとする。



4.継続賃料を求める場合

継続賃料の鑑定評価額は、現行賃料を前提として、契約当事者間で現行賃料を合意しそれを適用した時点(以下「直近合意時点」という。)以降において、公租公課、土地及び建物価格、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における賃料又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃料の変動等のほか、賃貸借等の契約の経緯、賃料改定の経緯及び契約内容を総合的に勘案し、契約当事者間の公平に留意の上決定するものである。



Ⅱ 新規賃料を求める鑑定評価の手法

 

1.積算法

 

(1)意義

積算法は、対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を積算賃料という。)。

積算法は、対象不動産の基礎価格、期待利回り及び必要諸経費等の把握を的確に行い得る場合に有効である。



(2)適用方法

① 基礎価格

基礎価格とは、積算賃料を求めるための基礎となる価格をいい、原価法及び取引事例比較法により求めるものとする。

 

② 期待利回り

期待利回りとは、賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合をいう。

期待利回りを求める方法については、収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意すべきである。

 

③ 必要諸経費等

不動産の賃貸借等に当たってその賃料に含まれる必要諸経費等としては、次のものがあげられる。

 

減価償却費(償却前の純収益に対応する期待利回りを用いる場合には、計上しない。)

イ 維持管理費(維持費、管理費、修繕費等)

ウ 公租公課(固定資産税、都市計画税等)

エ 損害保険料(火災、機械、ボイラー等の各種保険)

オ 貸倒れ準備費

カ 空室等による損失相当額



2.賃貸事例比較法

 

(1)意義

賃貸事例比較法は、まず多数の新規の賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る実際実質賃料(実際に支払われている不動産に係るすべての経済的対価をいう。)に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた賃料を比較考量し、これによって対象不動産の試算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を比準賃料という。)。

賃貸事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の賃貸借等が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等が行われている場合に有効である。

 

(2)適用方法

 

① 事例の収集及び選択

賃貸借等の事例の収集及び選択については、取引事例比較法における事例の収集及び選択に準ずるものとする。この場合において、賃貸借等の契約の内容について類似性を有するものを選択すべきことに留意しなければならない。

 

② 事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較事情補正及び時点修正並びに地域要因の比較及び個別的要因の比較については、取引事例比較法の場合に準ずるものとする。



3.収益分析法

(1)意義

収益分析法は、一般の企業経営に基づく総収益を分析して対象不動産が一定

期間に生み出すであろうと期待される純収益(減価償却後のものとし、これを

収益純賃料という。)を求め、これに必要諸経費等を加算して対象不動産の試

算賃料を求める手法である(この手法による試算賃料を収益賃料という。)。

収益分析法は、企業の用に供されている不動産に帰属する純収益を適切に求

め得る場合に有効である。

 

(2)適用方法

① 収益純賃料の算定

収益純賃料の算定については、収益還元法における純収益の算定に準ずる

ものとする。この場合において、賃料の有する特性に留意しなければならな

い。

 

② 収益賃料を求める手法

収益賃料は、収益純賃料の額に賃貸借等に当たって賃料に含まれる必要諸

経費等を加算することによって求めるものとする。

なお、一般企業経営に基づく総収益を分析して収益純賃料及び必要諸経費

等を含む賃料相当額を収益賃料として直接求めることができる場合もある。



Ⅲ 継続賃料を求める鑑定評価の手法

 

1.差額配分法

 

(1)意義

 

差額配分法は、対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料又は支払賃

料と実際実質賃料又は実際支払賃料との間に発生している差額について、契約

の内容、契約締結の経緯等を総合的に勘案して、当該差額のうち賃貸人等に帰

属する部分を適切に判定して得た額を実際実質賃料又は実際支払賃料に加減し

て試算賃料を求める手法である。



(2)適用方法

 

① 対象不動産の経済価値に即応した適正な実質賃料は、価格時点において想

定される新規賃料であり、積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとす

る。

対象不動産の経済価値に即応した適正な支払賃料は、契約に当たって一時

金が授受されている場合については、実質賃料から権利金、敷金、保証金等

の一時金の運用益及び償却額を控除することにより求めるものとする。

 

② 賃貸人等に帰属する部分については、継続賃料固有の価格形成要因に留意

しつつ、一般的要因の分析及び地域要因の分析により差額発生の要因を広域

的に分析し、さらに対象不動産について契約内容及び契約締結の経緯等に関

する分析を行うことにより適切に判断するものとする。

 

2.利回り法

 

(1)意義

 

利回り法は、基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加

算して試算賃料を求める手法である。

 

(2)適用方法

① 基礎価格及び必要諸経費等の求め方については、積算法に準ずるものとす

る。

② 継続賃料利回りは、直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合

を踏まえ、継続賃料固有の価格形成要因に留意しつつ、期待利回り、契約締

結時及びその後の各賃料改定時の利回り、基礎価格の変動の程度、近隣地域

若しくは同一需給圏内の類似地域等における対象不動産と類似の不動産の賃

貸借等の事例又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等の事例における

利回りを総合的に比較考量して求めるものとする。

 

3.スライド法

(1)意義

スライド法は、直近合意時点における純賃料に変動率を乗じて得た額に価格

時点における必要諸経費等を加算して試算賃料を求める手法である。

なお、直近合意時点における実際実質賃料又は実際支払賃料に即応する適切

な変動率が求められる場合には、当該変動率を乗じて得た額を試算賃料として

直接求めることができるものとする。

 

(2)適用方法

① 変動率は、直近合意時点から価格時点までの間における経済情勢等の変化

に即応する変動分を表すものであり、継続賃料固有の価格形成要因に留意し

つつ、土地及び建物価格の変動、物価変動、所得水準の変動等を示す各種指

数や整備された不動産インデックス等を総合的に勘案して求めるものとす

る。

② 必要諸経費等の求め方は、積算法に準ずるものとする。

 

4.賃貸事例比較法

賃貸事例比較法は、新規賃料に係る賃貸事例比較法に準じて試算賃料を求める

手法である。試算賃料を求めるに当たっては、継続賃料固有の価格形成要因の比

較を適切に行うことに留意しなければならない。

 

1-7

不動産鑑定評価基準

 

総 論

第1章 不動産の鑑定評価に関する基本的考察

不動産の鑑定評価とはどのようなことであるか、それは何故に必要であるか、われわれの社会においてそれはどのような役割を果たすものであるか、そしてこの役割の具体的な担当者である不動産鑑定士及び不動産鑑定士補(以下「不動産鑑定士」という。)に対して要請されるものは何であるか、不動産鑑定士は、まず、これらについて十分に理解し、体得するところがなければならない。

 

第1節 不動産とその価格

不動産は、通常、土地とその定着物をいう。土地はその持つ有用性の故にすべての国民の生活と活動とに欠くことのできない基盤である。そして、この土地を我々人間が各般の目的のためにどのように利用しているかという土地と人間との関係は、不動産のあり方、すなわち、不動産がどのように構成され、どのように貢献しているかということに具体的に現れる。

この不動産のあり方は、自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定されるとともに経済価値の本質を決定づけている。一方、この不動産のあり方は、その不動産の経済価値を具体的に表している価格を選択の主要な指標として決定されている。

不動産の価格は、一般に、

(1)その不動産に対してわれわれが認める効用

(2)その不動産の相対的稀少性

(3)その不動産に対する有効需要

三者の相関結合によって生ずる不動産の経済価値を、貨幣額をもって表示したものである。そして、この不動産の経済価値は、基本的にはこれら三者を動かす自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定される。不動産の価格とこれらの要因との関係は、不動産の価格が、これらの要因の影響の下にあると同時に選択指標としてこれらの要因に影響を与えるという二面性を持つものである。

 

第2節 不動産とその価格の特徴

 

不動産が国民の生活と活動に組み込まれどのように貢献しているかは具体的な価格として現れるものであるが、土地は他の一般の諸財と異なって次のような特性を持っている。

(1)自然的特性として、地理的位置の固定性、不動性(非移動性)、永続性(不変性)、不増性、個別性(非同質性、非代替性)等を有し、固定的であって硬直的である。

(2)人文的特性として、用途の多様性(用途の競合、転換及び併存の可能性)、併合及び分割の可能性、社会的及び経済的位置の可変性等を有し、可変的であって伸縮的である。

不動産は、この土地の持つ諸特性に照応する特定の自然的条件及び人文的条件を与件として利用され、その社会的及び経済的な有用性を発揮するものである。そして、これらの諸条件の変化に伴って、その利用形態並びにその社会的及び経済的な有用性は変化する。

不動産は、また、その自然的条件及び人文的条件の全部又は一部を共通にすることによって、他の不動産とともにある地域を構成し、その地域の構成分子としてその地域との間に、依存、補完等の関係に及びその地域内の他の構成分子である不動産との間に協働、代替、競争等の関係にたち、これらの関係を通じてその社会的及び経済的な有用性を発揮するものである(不動産の地域性)。

このような地域には、その規模、構成の内容、機能等に従って各種のものが認められるが、そのいずれもが、不動産の集合という意味において、個別の不動産の場合と同様に、特定の自然的条件及び人文的条件との関係を前提とする利用のあり方の同一性を基準として理解されるものであって、他の地域と区別されるべき特性をそれぞれ有するとともに、他の地域との間に相互関係にたち、この相互関係を通じて、その社会的及び経済的位置を占めるものである(地域の特性)。

このような不動産の特徴により、不動産の価格についても、他の一般の諸財の価格と異なって、およそ次のような特徴を指摘することができる。

 

(1)不動産の経済価値は、一般に、交換の対価である価格として表示されるとともに、その用益の対価である賃料として表示される。そして、この価格と賃料との間には、いわゆる元本と果実との間に認められる相関関係を認めることができる。

 

(2)不動産の価格(又は賃料)は、その不動産に関する所有権、賃借権等の権利の対価又は経済的利益の対価であり、また、二つ以上の権利利益が同一の不動産の上に存する場合には、それぞれの権利利益について、その価格(又は賃料)が形成され得る。

 

(3)不動産の属する地域は固定的なものではなくて、常に拡大縮小、集中拡散、 発展衰退等の変化の過程にあるものであるから、不動産の利用形態が最適なものであるかどうか、仮に現在最適なものであっても、時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、これらは常に検討されなければならない。したがって、不動産の価格(又は賃料)は、通常、過去と将来とにわたる長期的な考慮の下に形成される。今日の価格(又は賃料)は、昨日の展開であり、明日を反映するものであって常に変化の過程にあるものである。

 

(4)不動産の現実の取引価格等は、取引等の必要に応じて個別的に形成されるのが通常であり、しかもそれは個別的な事情に左右されがちのものであって、このような取引価格等から不動産の適正な価格を見出すことは一般の人には非常に困難である。したがって、不動産の適正な価格については専門家としての不動産鑑定士の鑑定評価活動が必要となるものである。

 

第3節 不動産の鑑定評価

このように一般の諸財と異なる不動産についてその適正な価格を求めるためには、鑑定評価の活動に依存せざるを得ないこととなる。

不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである。それは、この社会における一連の価格秩序の中で、その不動産の価格及び賃料がどのような所に位するかを指摘することであって、

(1)鑑定評価の対象となる不動産の的確な認識の上に、

(2)必要とする関連資料を十分に収集して、これを整理し、

(3)不動産の価格を形成する要因及び不動産の価格に関する諸原則についての十分な理解のもとに、

(4)鑑定評価の手法を駆使して、その間に、

(5)既に収集し、整理されている関連諸資料を具体的に分析して、対象不動産に及ぼす自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の影響を判断し、

(6)対象不動産の経済価値に関する最終判断に到達し、これを貨幣額をもって表示するものである。

この判断の当否は、これら各段階のそれぞれについての不動産鑑定士の能力の如何及びその能力の行使の誠実さの如何に係るものであり、また、必要な関連諸資料の収集整理の適否及びこれらの諸資料の分析解釈の練達の程度に依存するものである。したがって、鑑定評価は、高度な知識と豊富な経験及び的確な判断力を持ち、さらに、これらが有機的かつ総合的に発揮できる練達堪能な専門家によってなされるとき、初めて合理的であって、客観的に論証できるものとなるのである。

不動産の鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格を、不動産鑑定士が的確に把握する作業に代表されるように、練達堪能な専門家によって初めて可能な仕事であるから、このような意味において、不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり、意見であるといってよいであろう。

それはまた、この社会における一連の価格秩序のなかで、対象不動産の価格の占める適正なあり所を指摘することであるから、その社会的公共的意義は極めて大きいといわなければならない。

第4節 不動産鑑定士の責務

土地は、土地基本法に定める土地についての基本理念に即して利用及び取引が行われるべきであり、特に投機的取引の対象とされてはならないものである。不動産鑑定士は、このような土地についての基本的な認識に立って不動産の鑑定評価を行わなければならない。

不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価を担当する者として、十分に能力のある専門家としての地位を不動産の鑑定評価に関する法律によって認められ、付与されるものである。したがって、不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価の社会的公共的意義を理解し、その責務を自覚し、的確かつ誠実な鑑定評価活動の実践をもって、社会一般の信頼と期待に報いなければならない。

そのためには、まず、不動産鑑定士は、同法に規定されているとおり、良心に従い、誠実に不動産の鑑定評価を行い、専門職業家としての社会的信用を傷つけるような行為をしてはならないとともに、正当な理由がなくて、その職務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならないことはいうまでもなく、さらに次に述べる事項を遵守して資質の向上に努めなければならない。

(1)高度な知識と豊富な経験と的確な判断力とが有機的に統一されて、初めて的確な鑑定評価が可能となるのであるから、不断の勉強と研鑚とによってこれを体得し、鑑定評価の進歩改善に努力すること。

(2)依頼者に対して鑑定評価の結果を分かり易く誠実に説明を行い得るようにするとともに、社会一般に対して、実践活動をもって、不動産の鑑定評価及びその制度に関する理解を深めることにより、不動産の鑑定評価に対する信頼を高めるよう努めること。

(3)不動産の鑑定評価に当たっては、自己又は関係人の利害の有無その他いかなる理由にかかわらず、公平妥当な態度を保持すること。

(4)不動産の鑑定評価に当たっては、専門職業家としての注意を払わなければならないこと。

(5)自己の能力の限度を超えていると思われる不動産の鑑定評価を引き受け、又は縁故若しくは特別の利害関係を有する場合等、公平な鑑定評価を害する恐れのあると

きは、原則として不動産の鑑定評価を引き受けてはならないこと。

 

第2章 不動産の種別及び類型

 

不動産の鑑定評価においては、不動産の地域性並びに有形的利用及び権利関係の態様に応じた分析を行う必要があり、その地域の特性等に基づく不動産の種類ごとに検討することが重要である。

不動産の種類とは、不動産の種別及び類型の二面から成る複合的な不動産の概念を示すものであり、この不動産の種別及び類型が不動産の経済価値を本質的に決定づけるものであるから、この両面の分析をまって初めて精度の高い不動産の鑑定評価が可能となるものである。

不動産の種別とは、不動産の用途に関して区分される不動産の分類をいい、不動産の類型とは、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて区分される不動産の分類をいう。

 

第1節 不動産の種別

 

Ⅰ 地域の種別

 

地域の種別は、宅地地域、農地地域、林地地域等に分けられる。

宅地地域とは、居住、商業活動、工業生産活動等の用に供される建物、構築物等の敷地の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいい、住宅地域、商業地域、工業地域等に細分される。さらに住宅地域、商業地域、工業地域等については、その規模、構成の内容、機能等に応じた細分化が考えられる。

農地地域とは、農業生産活動のうち耕作の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。

林地地域とは、林業生産活動のうち木竹又は特用林産物の生育の用に供されることが、自然的、社会的、経済的及び行政的観点からみて合理的と判断される地域をいう。

なお、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域及び宅地地域、農地地域等のうちにあって、細分されたある種別の地域から、その地域の他の細分された地域へと移行しつつある地域があることに留意すべきである。

 

Ⅱ 土地の種別

 

土地の種別は、地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、宅地、農地、林地、見込地、移行地等に分けられ、さらに地域の種別の細分に応じて細分される。

宅地とは、宅地地域のうちにある土地をいい、住宅地、商業地、工業地等に細分される。この場合において、住宅地とは住宅地域のうちにある土地をいい、商業地とは商業地域のうちにある土地をいい、工業地とは工業地域のうちにある土地をいう。

農地とは、農地地域のうちにある土地をいう。

林地とは、林地地域のうちにある土地(立木竹を除く。)をいう。

見込地とは、宅地地域、農地地域、林地地域等の相互間において、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換しつつある地域のうちにある土地をいい、宅地見込地、農地見込地等に分けられる。

移行地とは、宅地地域、農地地域等のうちにあって、細分されたある種別の地域から他の種別の地域へと移行しつつある地域のうちにある土地をいう。

 

第2節 不動産の類型

 

宅地並びに建物及びその敷地の類型を例示すれば、次のとおりである。

 

Ⅰ 宅地

 

宅地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、更地、建付地、借地権、底地、区分地上権等に分けられる。

更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。

建付地とは、建物等の用に供されている敷地で建物等及びその敷地が同一の所有者に属している宅地をいう。

借地権とは、借地借家法(廃止前の借地法を含む。)に基づく借地権(建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権)をいう。

底地とは、宅地について借地権の付着している場合における当該宅地の所有権をいう。

区分地上権とは、工作物を所有するため、地下又は空間に上下の範囲を定めて設定された地上権をいう。

 

Ⅱ 建物及びその敷地

 

建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる。

自用の建物及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であり、その所有者による使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地をいう。

貸家及びその敷地とは、建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であるが、建物が賃貸借に供されている場合における当該建物及びその敷地をいう。

借地権付建物とは、借地権を権原とする建物が存する場合における当該建物及び借地権をいう。

区分所有建物及びその敷地とは、建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分並びに当該専有部分に係る同条第4項に規定する共用部分の共有持分及び同条第6項に規定する敷地利用権をいう。

 

第3章 不動産の価格を形成する要因

 

不動産の価格を形成する要因(以下「価格形成要因」という。)とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要三者に影響を与える要因をいう。不動産の価格は、多数の要因の相互作用の結果として形成されるものであるが、要因それ自体も常に変動する傾向を持っている。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、価格形成要因を市場参加者の観点から明確に把握し、かつ、その推移及び動向並びに諸要因間の相互関係を十分に分析して、前記三者に及ぼすその影響を判定することが必要である。

 

価格形成要因は、一般的要因、地域要因及び個別的要因に分けられる。 

 

第1節 一般的要因

 

一般的要因とは、一般経済社会における不動産のあり方及びその価格の水準に影響を与える要因をいう。それは、自然的要因、社会的要因、経済的要因及び行政的要因に大別される。

一般的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

Ⅰ 自然的要因

1.地質、地盤等の状態

2.土壌及び土層の状態

3.地勢の状態

4.地理的位置関係

5.気象の状態

Ⅱ 社会的要因

1.人口の状態

2.家族構成及び世帯分離の状態

3.都市形成及び公共施設の整備の状態

4.教育及び社会福祉の状態

5.不動産の取引及び使用収益の慣行

6.建築様式等の状態

7.情報化の進展の状態

8.生活様式等の状態

Ⅲ 経済的要因

1.貯蓄、消費、投資及び国際収支の状態

2.財政及び金融の状態

3.物価、賃金、雇用及び企業活動の状態

4.税負担の状態

5.企業会計制度の状態

6.技術革新及び産業構造の状態

7.交通体系の状態

8.国際化の状態

Ⅳ 行政的要因

1.土地利用に関する計画及び規制の状態

2.土地及び建築物の構造、防災等に関する規制の状態

3.宅地及び住宅に関する施策の状態

4.不動産に関する税制の状態

5.不動産の取引に関する規制の状態

 

第2節 地域要因

 

地域要因とは、一般的要因の相関結合によって規模、構成の内容、機能等にわたる各地域の特性を形成し、その地域に属する不動産の価格の形成に全般的な影響を与える要因をいう。

Ⅰ 宅地地域

1.住宅地域

住宅地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、温度、湿度、風向等の気象の状態

(2)街路の幅員、構造等の状態

(3)都心との距離及び交通施設の状態

(4)商業施設の配置の状態

(5)上下水道、ガス等の供給・処理施設の状態

(6)情報通信基盤の整備の状態

(7)公共施設、公益的施設等の配置の状態

(8)汚水処理場等の嫌悪施設等の有無

(9)洪水、地すべり等の災害の発生の危険性

(10)騒音、大気の汚染、土壌汚染等の公害の発生の程度

(11)各画地の面積、配置及び利用の状態

(12)住宅、生垣、街路修景等の街並みの状態

(13)眺望、景観等の自然的環境の良否

(14)土地利用に関する計画及び規制の状態

2.商業地域

前記1.に掲げる地域要因のほか、商業地域特有の地域要因の主なものを例示

すれば、次のとおりである。

(1)商業施設又は業務施設の種類、規模、集積度等の状態

(2)商業背後地及び顧客の質と量

(3)顧客及び従業員の交通手段の状態

(4)商品の搬入及び搬出の利便性

(5)街路の回遊性、アーケード等の状態

(6)営業の種別及び競争の状態

(7)当該地域の経営者の創意と資力

(8)繁華性の程度及び盛衰の動向

(9)駐車施設の整備の状態

(10)行政上の助成及び規制の程度

3.工業地域

前記1.に掲げる地域要因のほか、工業地域特有の地域要因の主なものを例示

すれば、次のとおりである。

(1)幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設の整備の状況

(2)労働力確保の難易

(3)製品販売市場及び原材料仕入市場との位置関係

(4)動力資源及び用排水に関する費用

(5)関連産業との位置関係

(6)水質の汚濁、大気の汚染等の公害の発生の危険性

(7)行政上の助成及び規制の程度

Ⅱ 農地地域

農地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態

2.起伏、高低等の地勢の状態

3.土壌及び土層の状態

4.水利及び水質の状態

5.洪水、地すべり等の災害の発生の危険性

6.道路等の整備の状態

7.集落との位置関係

8.集荷地又は産地市場との位置関係

9.消費地との距離及び輸送施設の状態

10.行政上の助成及び規制の程度

Ⅲ 林地地域

林地地域の地域要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.日照、温度、湿度、風雨等の気象の状態

2.標高、地勢等の状態

3.土壌及び土層の状態

4.林道等の整備の状態

5.労働力確保の難易

6.行政上の助成及び規制の程度

なお、ある種別の地域から他の種別の地域へと転換し、又は移行しつつある地域については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域の地域要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域の地域要因をより重視すべきである。

 

第3節 個別的要因

 

個別的要因とは、不動産に個別性を生じさせ、その価格を個別的に形成する要因をいう。個別的要因は、土地、建物等の区分に応じて次のように分けられる。

 

Ⅰ 土地に関する個別的要因

1.宅地

(1)住宅地

住宅地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 日照、通風及び乾湿

③ 間口、奥行、地積、形状等

④ 高低、角地その他の接面街路との関係

⑤ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑥ 接面街路の系統及び連続性

⑦ 交通施設との距離

⑧ 商業施設との接近の程度

⑨ 公共施設、公益的施設等との接近の程度

⑩ 汚水処理場等の嫌悪施設等との接近の程度

⑪ 隣接不動産等周囲の状態

上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑬ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑮ 土壌汚染の有無及びその状態

⑯ 公法上及び私法上の規制、制約等

(2)商業地

商業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 間口、奥行、地積、形状等

③ 高低、角地その他の接面街路との関係

④ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑤ 接面街路の系統及び連続性

⑥ 商業地域の中心への接近性

⑦ 主要交通機関との接近性

⑧ 顧客の流動の状態との適合性

⑨ 隣接不動産等周囲の状態

上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑪ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑬ 土壌汚染の有無及びその状態

⑭ 公法上及び私法上の規制、制約等

(3)工業地

工業地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

① 地勢、地質、地盤等

② 間口、奥行、地積、形状等

③ 高低、角地その他の接面街路との関係

④ 接面街路の幅員、構造等の状態

⑤ 接面街路の系統及び連続性

⑥ 従業員の通勤等のための主要交通機関との接近性

⑦ 幹線道路、鉄道、港湾、空港等の輸送施設との位置関係

⑧ 電力等の動力資源の状態及び引込の難易

⑨ 用排水等の供給・処理施設の整備の必要性

上下水道、ガス等の供給・処理施設の有無及びその利用の難易

⑪ 情報通信基盤の利用の難易

埋蔵文化財及び地下埋設物の有無並びにその状態

⑬ 土壌汚染の有無及びその状態

⑭ 公法上及び私法上の規制、制約等

2.農地

農地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、乾湿、雨量等の状態

(2)土壌及び土層の状態

(3)農道の状態

(4)灌漑排水の状態

(5)耕うんの難易

(6)集落との接近の程度

(7)集荷地との接近の程度

(8)災害の危険性の程度

(9)公法上及び私法上の規制、制約等

3.林地

林地の個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

(1)日照、乾湿、雨量等の状態

(2)標高、地勢等の状態

(3)土壌及び土層の状態

(4)木材の搬出、運搬等の難易

(5)管理の難易

(6)公法上及び私法上の規制、制約等

4.見込地及び移行地

見込地及び移行地については、転換し、又は移行すると見込まれる転換後又は移行後の種別の地域内の土地の個別的要因をより重視すべきであるが、転換又は移行の程度の低い場合においては、転換前又は移行前の種別の地域内の土地の個別的要因をより重視すべきである。

 

Ⅱ 建物に関する個別的要因

建物の各用途に共通する個別的要因の主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.建築(新築、増改築等又は移転)の年次

2.面積、高さ、構造、材質等

3.設計、設備等の機能性

4.施工の質と量

5.耐震性、耐火性等建物の性能

6.維持管理の状態

7.有害な物質の使用の有無及びその状態

8.建物とその環境との適合の状態

9.公法上及び私法上の規制、制約等

なお、市場参加者が取引等に際して着目するであろう個別的要因が、建物の用途毎に異なることに留意する必要がある。

 

Ⅲ 建物及びその敷地に関する個別的要因

 

前記Ⅰ及びⅡに例示したもののほか、建物及びその敷地に関する個別的要因の主なものを例示すれば、敷地内における建物、駐車場、通路、庭等の配置、建物と敷地の規模の対応関係等建物等と敷地との適応の状態、修繕計画・管理計画の良否とその実施の状態がある。

さらに、賃貸用不動産に関する個別的要因には、賃貸経営管理の良否があり、その主なものを例示すれば、次のとおりである。

1.賃借人の状況及び賃貸借契約の内容

2.貸室の稼働状況

3.躯体・設備・内装等の資産区分及び修繕費用等の負担区分

 

第4章 不動産の価格に関する諸原則

 

不動産の価格は、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが、その形成の過程を考察するとき、そこに基本的な法則性を認めることができる。不動産の鑑定評価は、その不動産の価格の形成過程を追究し、分析することを本質とするものであるから、不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するためには、鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、これらを具体的に現した以下の諸原則を活用すべきである。

これらの原則は、一般の経済法則に基礎を置くものであるが、鑑定評価の立場からこれを認識し、表現したものである。

なお、これらの原則は、孤立しているものではなく、直接的又は間接的に相互に関連しているものであることに留意しなければならない。

 

Ⅰ 需要と供給の原則

 

一般に財の価格は、その財の需要と供給との相互関係によって定まるとともに、その価格は、また、その財の需要と供給とに影響を及ぼす。

不動産の価格もまたその需要と供給との相互関係によって定まるのであるが、不動産は他の財と異なる自然的特性及び人文的特性を有するために、その需要と供給及び価格の形成には、これらの特性の反映が認められる。

 

Ⅱ 変動の原則

 

一般に財の価格は、その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。不動産の価格も多数の価格形成要因の相互因果関係の組合せの流れである変動の過程において形成されるものである。したがって、不動産の鑑定評価に当たっては、価格形成要因が常に変動の過程にあることを認識して、各要因間の相互因果関係を動的に把握すべきである。特に、不動産の最有効使用(Ⅳ参照)を判定するためには、この変動の過程を分析することが必要である。

 

Ⅲ 代替の原則

 

代替性を有する二以上の財が存在する場合には、これらの財の価格は、相互に影響を及ぼして定まる。

不動産の価格も代替可能な他の不動産又は財の価格と相互に関連して形成される。

 

Ⅳ 最有効使用の原則

 

不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである。

 

Ⅴ 均衡の原則

 

不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、その構成要素の組合せが均衡を得ていることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、この均衡を得ているかどうかを分析することが必要である。

 

Ⅵ 収益逓増及び逓減の原則

 

ある単位投資額を継続的に増加させると、これに伴って総収益は増加する。しかし、増加させる単位投資額に対応する収益は、ある点までは増加するが、その後は減少する。

この原則は、不動産に対する追加投資の場合についても同様である。

 

Ⅶ 収益配分の原則

 

土地、資本、労働及び経営(組織)の各要素の結合によって生ずる総収益は、これらの各要素に配分される。したがって、このような総収益のうち、資本、労働及び経営(組織)に配分される部分以外の部分は、それぞれの配分が正しく行われる限り、土地に帰属するものである。

 

Ⅷ 寄与の原則

 

不動産のある部分がその不動産全体の収益獲得に寄与する度合いは、その不動産全体の価格に影響を及ぼす。

この原則は、不動産の最有効使用の判定に当たっての不動産の追加投資の適否の判定等に有用である。

 

Ⅸ 適合の原則

 

不動産の収益性又は快適性が最高度に発揮されるためには、当該不動産がその環境に適合していることが必要である。したがって、不動産の最有効使用を判定するためには、当該不動産が環境に適合しているかどうかを分析することが必要である。

 

Ⅹ 競争の原則

 

一般に、超過利潤は競争を惹起し、競争は超過利潤を減少させ、終局的にはこれを消滅させる傾向を持つ。不動産についても、その利用による超過利潤を求めて、不動産相互間及び他の財との間において競争関係が認められ、したがって、不動産の価格は、このような競争の過程において形成される。

 

ⅩⅠ 予測の原則

 

財の価格は、その財の将来の収益性等についての予測を反映して定まる。

不動産の価格も、価格形成要因の変動についての市場参加者による予測によって左右される。

 

第5章 鑑定評価の基本的事項

 

不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点及び価格又は賃料の種類を確定しなければならない。

 

第1節 対象不動産の確定

 

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定することのみならず、鑑定評価の対象となる所有権及び所有権以外の権利を確定する必要がある。

対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定することであり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものである。

 

Ⅰ 対象確定条件

 

1.対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。

対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件であり、依頼目的に応じて次のような条件がある。

 

(1)不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。

 

(2)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を独立鑑定評価という。)。

 

(3)不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を部分鑑定評価という。)。

 

(4)不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。

 

(5)造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。

なお、上記に掲げるもののほか、対象不動産の権利の態様に関するものとして、価格時点と異なる権利関係を前提として鑑定評価の対象とすることがある。

 

2.対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。

なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、上記妥当性の検討に加え、価格時点において想定される竣工後の不動産に係る物的確認を行うために必要な設計図書等及び権利の態様の確認を行うための請負契約書等を収集しなければならず、さらに、当該未竣工建物等に係る法令上必要な許認可等が取得され、発注者の資金調達能力等の観点から工事完了の実現性が高いと判断されなければならない。

 

Ⅱ 地域要因又は個別的要因についての想定上の条件

 

対象不動産について、依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を設定する場合がある。この場合には、設定する想定上の条件が鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点に加え、特に実現性及び合法性の観点から妥当なものでなければならない。

一般に、地域要因について想定上の条件を設定することが妥当と認められる場合は、計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる。



Ⅲ 調査範囲等条件

 

不動産鑑定士の通常の調査の範囲では、対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合、当該価格形成要因について調査の範囲に係る条件(以下「調査範囲等条件」という。)を設定することができる。ただし、調査範囲等条件を設定することができるのは、調査範囲等条件を設定しても鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限る。

 

Ⅳ 鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす場合における条件設定の制限

 

証券化対象不動産(各論第3章第1節において規定するものをいう。)の鑑定評価及び会社法上の現物出資の目的となる不動産の鑑定評価等、鑑定評価が鑑定評価書の利用者の利益に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には、原則として、鑑定評価の対象とする不動産の現実の利用状況と異なる対象確定条件、地域要因又は個別的要因についての想定上の条件及び調査範囲等条件の設定をしてはならない。ただし、証券化対象不動産の鑑定評価で、各論第3章第2節に定める要件を満たす場合には未竣工建物等鑑定評価を行うことができるものとする。

 

Ⅴ 条件設定に関する依頼者との合意等

 

1.条件設定をする場合、依頼者との間で当該条件設定に係る鑑定評価依頼契約上の合意がなくてはならない。

2.条件設定が妥当ではないと認められる場合には、依頼者に説明の上、妥当な条件に改定しなければならない。

 

第2節 価格時点の確定

 

価格形成要因は、時の経過により変動するものであるから、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものである。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産の価格の判定の基準日を確定する必要があり、この日を価格時点という。また、賃料の価格時点は、賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首となる。

価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として現在の場合(現在時点)、過去の場合(過去時点)及び将来の場合(将来時点)に分けられる。



第3節 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定

 

不動産鑑定士による不動産の鑑定評価は、不動産の適正な価格を求め、その適正な価格の形成に資するものでなければならない。

 

Ⅰ 価格

 

不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。なお、評価目的に応じ、特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。

 

1.正常価格

 

正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。この場合において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。

 

(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。

 

なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。

 

① 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。

 

② 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。

 

③ 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。

 

④ 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。

 

⑤ 買主が通常の資金調達能力を有していること。

 

(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。

 

(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。

 

2.限定価格

 

限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。

限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

 

(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合

 

(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合

 

(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合



3.特定価格

 

特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

 

(1)各論第3 章第1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

 

(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

 

(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合



4.特殊価格

特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。



Ⅱ 賃料

 

不動産の鑑定評価によって求める賃料は、一般的には正常賃料又は継続賃料であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定賃料を求めることができる場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえてこれを適切に判断し、明確にすべきである。

 

1.正常賃料

 

正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等(賃借権若しくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。

 

2.限定賃料

 

限定賃料とは、限定価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料(新規賃料)をいう。

限定賃料を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借等に関連する場合

(2)経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借等に関連する場合



3.継続賃料

 

継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。



第6章 地域分析及び個別分析

 

対象不動産の地域分析及び個別分析を行うに当たっては、まず、それらの基礎となる一般的要因がどのような具体的な影響力を持っているかを的確に把握しておくことが必要である。



第1節 地域分析

 

Ⅰ 地域分析の意義

地域分析とは、その対象不動産がどのような地域に存するか、その地域はどのような特性を有するか、また、対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、及びそれらの特性はその地域内の不動産の利用形態と価格形成について全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、判定することをいう。

 

Ⅱ 地域分析の適用

 

1.地域及びその特性

地域分析に当たって特に重要な地域は、用途的観点から区分される地域(以下「用途的地域」という。)、すなわち近隣地域及びその類似地域と、近隣地域及びこれと相関関係にある類似地域を含むより広域的な地域、すなわち同一需給圏である。

また、近隣地域の特性は、通常、その地域に属する不動産の一般的な標準的使用に具体的に現れるが、この標準的使用は、利用形態からみた地域相互間の相対的位置関係及び価格形成を明らかにする手掛りとなるとともに、その地域に属する不動産のそれぞれについての最有効使用を判定する有力な標準となるものである。

なお、不動産の属する地域は固定的なものではなく、地域の特性を形成する地域要因も常に変動するものであることから、地域分析に当たっては、対象不動産に係る市場の特性の把握の結果を踏まえて地域要因及び標準的使用の現状と将来の動向とをあわせて分析し、標準的使用を判定しなければならない。

 

(1)用途的地域

 

① 近隣地域

 

近隣地域とは、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ地域である都市あるいは農村等の内部にあって、居住、商業活動、工業生産活動等人の生活と活動とに関して、ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域をいい、対象不動産の価格の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つものである。

近隣地域は、その地域の特性を形成する地域要因の推移、動向の如何によって、変化していくものである。

 

② 類似地域

 

類似地域とは、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域であり、その地域に属する不動産は、特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを持つものである。この地域のまとまりは、近隣地域の特性との類似性を前提として判定されるものである。



(2)同一需給圏

 

同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。それは、近隣地域を含んでより広域的であり、近隣地域と相関関係にある類似地域等の存する範囲を規定するものである。

一般に、近隣地域と同一需給圏内に存する類似地域とは、隣接すると否とにかかわらず、その地域要因の類似性に基づいて、それぞれの地域の構成分子である不動産相互の間に代替、競争等の関係が成立し、その結果、両地域は相互に影響を及ぼすものである。

また、近隣地域の外かつ同一需給圏内の類似地域の外に存する不動産であっても、同一需給圏内に存し対象不動産とその用途、規模、品等等の類似性に基づいて、これら相互の間に代替、競争等の関係が成立する場合がある。

同一需給圏は、不動産の種類、性格及び規模に応じた需要者の選好性によってその地域的範囲を異にするものであるから、その種類、性格及び規模に応じて需要者の選好性を的確に把握した上で適切に判定する必要がある。

同一需給圏の判定に当たって特に留意すべき基本的な事項は、次のとおりである。

 

① 宅地

 

ア 住宅地

 

同一需給圏は、一般に都心への通勤可能な地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。なお、地域の名声、品位等による選好性の強さが同一需給圏の地域的範囲に特に影響を与える場合があることに留意すべきである。



イ 商業地

 

同一需給圏は、高度商業地については、一般に広域的な商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される傾向がある。

また、普通商業地については、一般に狭い商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して代替性の及ぶ地域の範囲に一致する傾向がある。ただし、地縁的選好性により地域的範囲が狭められる傾向がある。



ウ 工業地

 

同一需給圏は、港湾、高速交通網等の利便性を指向する産業基盤指向型工業地等の大工場地については、一般に原材料、製品等の大規模な移動を可能にする高度の輸送機関に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向があり、したがって、その地域的範囲は、全国的な規模となる傾向がある。

また、製品の消費地への距離、消費規模等の市場接近性を指向する消費地指向型工業地等の中小工場地については、一般に製品の生産及び販売に関する費用の経済性に関して代替性を有する地域の範囲に一致する傾向がある。

 

エ 移行地

 

同一需給圏は、一般に当該土地が移行すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、移行前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

 

② 農地

 

同一需給圏は、一般に当該農地を中心とする通常の農業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する農業経営主体を中心とするそれぞれの農業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。

 

③ 林地

 

同一需給圏は、一般に当該林地を中心とする通常の林業生産活動の可能な地域の範囲内に立地する林業経営主体を中心とするそれぞれの林業生産活動の可能な地域の範囲に一致する傾向がある。

 

④ 見込地

 

同一需給圏は、一般に当該土地が転換すると見込まれる土地の種別の同一需給圏と一致する傾向がある。ただし、熟成度の低い場合には、転換前の土地の種別の同一需給圏と同一のものとなる傾向がある。

 

⑤ 建物及びその敷地

 

同一需給圏は、一般に当該敷地の用途に応じた同一需給圏と一致する傾向があるが、当該建物及びその敷地一体としての用途、規模、品等等によっては代替関係にある不動産の存する範囲が異なるために当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と一致しない場合がある。



2.対象不動産に係る市場の特性

 

地域分析における対象不動産に係る市場の特性の把握に当たっては、同一需給圏における市場参加者がどのような属性を有しており、どのような観点から不動産の利用形態を選択し、価格形成要因についての判断を行っているかを的確に把握することが重要である。あわせて同一需給圏における市場の需給動向を的確に把握する必要がある。

また、把握した市場の特性については、近隣地域における標準的使用の判定に反映させるとともに鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における各種の判断においても反映すべきである。



第2節 個別分析

 

Ⅰ 個別分析の意義

 

不動産の価格は、その不動産の最有効使用を前提として把握される価格を標準として形成されるものであるから、不動産の鑑定評価に当たっては、対象不動産の最有効使用を判定する必要がある。個別分析とは、対象不動産の個別的要因が対象不動産の利用形態と価格形成についてどのような影響力を持っているかを分析してその最有効使用を判定することをいう。

 

Ⅱ 個別分析の適用

 

1.個別的要因の分析上の留意点

個別的要因は、対象不動産の市場価値を個別的に形成しているものであるため、個別的要因の分析においては、対象不動産に係る典型的な需要者がどのような個別的要因に着目して行動し、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度をどのように評価しているかを的確に把握することが重要である。

また、個別的要因の分析結果は、鑑定評価の手法の適用、試算価格又は試算賃料の調整等における各種の判断においても反映すべきである。

 

2.最有効使用の判定上の留意点

不動産の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。

(1)良識と通常の使用能力を持つ人が採用するであろうと考えられる使用方法であること。

(2)使用収益が将来相当の期間にわたって持続し得る使用方法であること。

(3)効用を十分に発揮し得る時点が予測し得ない将来でないこと。

(4)個々の不動産の最有効使用は、一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるので、個別分析に当たっては、特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との相互関係を明らかにし判定することが必要であるが、対象不動産の位置、規模、環境等によっては、標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、こうした場合には、それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行った上で最有効使用を判定すること。

(5)価格形成要因は常に変動の過程にあることを踏まえ、特に価格形成に影響を与える地域要因の変動が客観的に予測される場合には、当該変動に伴い対象不動産の使用方法が変化する可能性があることを勘案して最有効使用を判定すること。

特に、建物及びその敷地の最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきである。

(6)現実の建物の用途等が更地としての最有効使用に一致していない場合には、更地としての最有効使用を実現するために要する費用等を勘案する必要があるため、建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容が必ずしも一致するものではないこと。

(7)現実の建物の用途等を継続する場合の経済価値と建物の取壊しや用途変更等を行う場合のそれらに要する費用等を適切に勘案した経済価値を十分比較考量すること。

1-4

自用の建物及びその敷地(以下、自建)

不動産の類型(有形的利用・権利関係の態様)は、

種別(用途による分類)とともに

不動産の経済価値を本質的に決定づけるので、

類型に応じた適切な要因の分析や

評価手法の適用を行う必要がある。

 

自建とは

建物所有者とその敷地の所有者とが

同一人であり、

その所有者による使用収益を制約する権利の

付着していない場合における当該敷地と建物。

 

自建の特徴

①直ちに需要者の用に

供することが出来るので、

②取引当事者は、価格の三面性

(費用性/市場性/収益性)を

等しく考慮して取引意思決定する。

したがって、

自建の鑑定評価額

①原価法による積算価格

②取事比法による比準価格

③収還法による収益価格 

を関連づけて決定する。

 

貸家及びその敷地(以下、貸家)

貸家とは

建物所有者とその敷地の所有者とが

同一人であるが、

建物が賃貸借に供されている場合

における当該敷建。

 

貸家は

①借地人が居付であるので、

②直ちに需要者のように供することが出来ず、

③取引当事者(投資家)は、

投資用不動産として

収益性を重視して取引意思決定する。

したがって、

貸家鑑定評価額は

①実際実質賃料

(売主が既に受領した一時金のうち

売買等にあたって

買主に承継されない部分がある場合には、

当該部分の運用益償却額を

含まないものとする)

に基づく純収益等の現在価値の総和

を求めることにより得た収益価格を標準とし、

②積算価格

③比準価格 

を比較考量して決定する。

 

借地権付建物(以下、借建)

借建とは

借地権を権原とする建物が存する場合における当該建物およびその借地権

借建鑑定評価額は

当該建物を借地人が使用しているものについての鑑定評価額は、

①原価法による積算価格

②取事比法による比準価格

③収還法による収益価格 

を関連づけて決定する。

  

 

借地権の価格を求めるにあたっては

①借地権の取引慣行の成熟の程度によって

適用する方法が異なるため、

②借地権に係る地域分析及び個別分析を行い、

③借地権の態様や取引慣行を

明確にしなければならない。

借建鑑定評価額(貸家)の場合

当該建物が賃貸されているものについての

鑑定評価額は、

①実際実質賃料に基づく純収益の

現在価値の総和

を求めることにより得た収益価格を標準とし、

②原価法による積算価格

③取事比法による比準価格

を比較考量して決定する。

 

 

 

還元方法について

旧法に基づく借地権や、

借地借家法に基づく

いわゆる普通借地権の場合、

契約期間が満了しても契約更新される可能性が高い。

しかし、

定期借地権の場合、通常、

契約期間の満了に伴って

確定的に契約が終了する。

したがって、

残存契約期間の短い定期借地権付建物の場合、

直接還元法の適用に当たっては、

有期還元法のモデルである

インウッド式(初年度純収益×複利年金現価率+復帰価格×複利現価率)

を採用し、

DCF法の適用に当たっては、

当該残存期間を分析期間と設定することが、

それぞれ合理的と考えられる。

 

区分所有建物及びその敷地の評価・意義・留意点

区分所有建物及びその敷地の定義

建物の区分所有等に関する法律

①第2条第3項に規定する専有部分

②当該専有部分に係る第2条第4項に規定する

共用部分の共有持分

③第2条第6項に規定する敷地利用権

 

区分所有建物およびその敷地で、

専有部分を区分所有者が使用しているものについての鑑定評価額

①原価法による積算価格

②取事比法による比準価格

③収益還元法による収益価格  

を関連付けて決定するものとする。

 

区分所有建物およびその敷地で、専有部分が賃貸されているものについての鑑定評価額

①実際実質賃料

(売主が既に受領した一時金のうち

売買等にあたって

買主に承継されない部分がある場合には、

当該部分の運用益及び償却額を

含まないものとする。)

に基づく純収益の現在価値の総和

を求めることにより得た収益価格を標準とし、

②積算価格及び比準価格を

比較考量して決定するものとする。

 

Ex)対象不動産に経済価値のある専用庭が付着しているとき

原価法

区分所有建物及びその敷地の積算価格は、

①区分所有建物の対象となっている

一棟の建物及びその敷地の積算価格を求め、

②当該積算価格に当該一棟の建物の

階層別・同一階層内の位置別効用比

により求めた配分率を

乗ずることにより求める。

③本件庭は専用部分の個別的要因として

配分率の査定の中で反映させるか、

配分率を乗じた後に個別修正として

反映させる。

 

個別的要因の比較に反映させると同時に、

取引事例選択の際の判断材料としても活用

 

 

 

 

 

■不動産の種を判定する意義

不動産の鑑定評価においては、

①不動産の地域性 

②有形的利用 

③権利関係の態様

に応じた分析を行う必要があり、

その地域の特性等に基づく

不動産の種類ごとに検討することが

重要である。

 

不動産の種類とは、

①不動産の種別と類型の二面からなる

複合的な不動産の概念を示すものであり、

 

②この不動産の種別と類型が

不動産の経済価値を本質的に決定づける

ものであるから、

 

③この両面の分析を待って

初めて精度の高い鑑定評価が

可能となるのである。

 

不動産の種別とは、

不動産の用途に関して区分される

不動産の分類をいい、

①地域の種別と、

②地域の種別に応じて区分される

土地の種別とがある。

 

地域の種別

①宅地/農地/林地地域に分けられる。

②宅地地域は、住宅/商業/工業地域に

細分され、

③さらにその規模/構成の内容/機能等に

応じた細分化が考えられる。

 

土地の種別

①地域の種別に応じて区分される

土地の区分であり、

②宅地/農地/林地/見込地/移行地に分けられ、

③さらに地域の種別の細分に応じて

細分される。

 

不動産の類型とは、

①不動産の有形的利用

②権利関係の態様

に応じて区分される不動産の分類をいう。

 

■不動産の種を判定する意義

不動産の地域性

不動産は、

①他の不動産と共に、

用途的に同質性を有する一定の地域

(用途的地域)を構成して、

②用途的地域に属することを通常とし、

 

地域の特性

地域は、

①その規模

②構成の内容

③機能等

にわたって

それぞれ他の地域と区別されるべき特性

を有している。

 

用途的地域

①用途的地域には、

その地域の特性に応じた一定の価格水準

が形成されるとともに、

②地域内の不動産の価格は、

この地域の価格水準という大枠の下で

個別的に形成される。

 

したがって、

不動産の鑑定評価にあたっては、

①対象不動産が属する用途的地域の種別と

②対象不動産の種別を的確に判定し、

③当該種別に応じた

市場参加者の観点に立って、

④各手順における分析判断を行わなければならない。

 

不動産の種別の分類は、

①不動産の鑑定評価における

地域分析・個別分析・鑑定評価手法の適用等の

各手順を通じて重要な事項となっており、

②これらを的確に分類整理することは

鑑定評価の精密さを一段と高めるものである。

 

不動産の種別の細分化の必要性

不動産の鑑定評価に当たっては、

価格形成要因を市場参加者の観点から

把握・分析することが必要であるが、

一般に

市場参加者の意思決定基準は、

対象となる不動産の種別により異なり、

それは、

種別を細分化することで

より純化されるものである。

したがって、

鑑定評価の精度を高めるため、

不動産の種別は出来るだけ細分化すべき。

 

■不動産の種類が不動産の経済価値を決定する理由

 不動産の在り方と経済価値

土地は

その持つ有用性のゆえに、

すべての国民の生活と活動とに

欠くことのできない基盤である。

そして、

この土地を人間が各般の目的のために

どのように利用しているかという

土地と人間との関係は、

不動産の在り方、

すなわち、

不動産がどのように構成され、

どのように貢献しているかということに

具体的に現れる。

 

この場合における構成とは、

不動産の有形的利用及び

権利関係の態様(類型)を意味し、

 

この場合における貢献とは、

不動産の用途(種別)を意味する。

 

この不動産の在り方は、

①価格形成要因の相互作用によって

決定されるとともに、

②経済価値の本質を決定づけている。

 

不動産の種別と経済価値

不動産は他の不動産と共に、

用途的に同質性を有する一定の地域を構成し、

これに属することを通常とし、

地域は、

その規模/構成の内容/機能等にわたって

それぞれ他の地域と区別されるべき特性を

有している。

 

不動産の属する用途的地域は、

他の用途的地域との相互関係を通じて

その社会経済的位置を占め、

個別の不動産は、

地域内の他の不動産との関係を通じて

その社会的経済的有用性を発揮する。

 

すなわち、

不動産が構成する用途的地域ごとに

価格水準が構成され、

個別の不動産の価格は、

地域の価格水準という大枠の中で個別的に形成される。

 

従って、

不動産の種別(用途)は

不動産の経済価値の本質を決定づける

ということができる。

 

不動産の類型と経済価値

不動産は、

土地の持つ諸特性(自然的/人文的特性)

に照応する特定の自然的/人文的条件を

与件として利用され、

その社会的経済的有用性を発揮する。

また、

不動産の価格は、

その不動産に関する

①所有権、賃借権等の権利の対価

経済的利益の対価であり、

二つ以上の権利利益が

同一の不動産の上に存する場合には、

それぞれの権利利益について、

その価格が形成されうる。

 

従って、

不動産の類型(有形的利用/権利関係の態様)は、

不動産の経済価値の本質を決定づける

といえる。

■商業地

商業地とは、

商業活動の用に供される建物・建築物等の敷地の用に供されることが、

自然的/社会的/経済的/行政的観点からみて

合理的と判断される地域をいう。

 

商業地の同一需給圏は、高度商業地については、

①一般に広域的な商業背後地を基礎に成り立つ商業収益に関して、

②代替性の及ぶ範囲に一致する傾向があり、

③その範囲は高度商業地の性格に応じて広域的に形成される傾向あり。

 

商業地は、

通常「収益性」に応じた

価格形成がなされるため

その同一需給圏は、

主として投資対象として代替性

の認められる不動産の存する範囲として判定される。

 

 

 

 

■業務高度商業地域の地域分析において重視すべき地域要因

不動産の種別とは:

不動産の用途に関して区分される不動産の分類をいい、

地域の種別と土地の種別に分けられる。

 

商業地域とは、

商業活動の用に供される建物、構築物等

の用に供されることが合理的と判断される地域をいい、

その規模構成の内容機能等に応じて、

 

一般に、

地域の種別ごとに

不動産の価格を決定する市場参加者が期待する効用が異なるため、

地域の種別ごとに重視すべき地域要因も異なる。

 

業務高度商業地域は、

都心部において収益性の極めて高い高層事務所ビルが立ち並ぶ地域であり、

当該地域における主たる市場参加者としては、

自社物件を求める大手法人・賃貸収入目的の投資家等が考えられる。

 

当該市場参加者は「収益性」を重視して価格判断を行うため、

鑑定評価においても同様の視点に立ち、

当該地域の収益性に特に影響を与える、

業務施設の種類規模、

集積度等の状態、

繁華性の程度及び盛衰の動向、

行政上の規制(容積率等)

の地域要因に重点を置いた分析が必要である。

 

■住宅地

住宅地とは、

居住の用に供される建物・建築物等の敷地の用に供されることが、

自然的社会的経済的行政的観点からみて

合理的と判断される地域 をいう。

 

住宅地の同一需給圏は、

①一般に都心への通勤可能な地域の範囲に一致する傾向がある。

ただし、

②地縁的選好性により、地域的範囲が狭められる傾向があり、また

③地域の名声、品位等による選好性の強さが

同一需給圏の地域的範囲に特に影響を与える場合があることに留意する。

 

 

■宅地見込地と法則性

土地の種別は、

地域の種別に応じて分類される土地の区分であり、

宅地/農地/林地/移行地/見込地等に分けられ、

さらに地域の種別の細分に応じて細分される。

 

宅地見込地とは

①宅地地域とその他の種別の地域の相互間において、

②その他の種別の地域から宅地地域へと

転換しつつある地域のうちにある土地をいう。

 

熟成度の高い宅地見込地の鑑定評価額は、

①比準価格 及び

②当該見込地について、

価格時点において、

転換後・造成後の更地を想定し、

その価格(更地価格)から通常の造成費相当額 及び

発注者が負担すべき通常の付帯費用を控除し、

その額を当該見込地の熟成度に応じて

適切に修正して得た額

(この手法を「控除法」という。)

を関連付けて決定するものとする。

 

また、

熟成度の低い宅地見込地を鑑定評価する場合には、

①比準価格を標準とし、

②転換前の土地の種別に基づく価格に、

宅地となる期待性を加味して

得た額を比較考量して決定するものとする。

 

宅地見込地の鑑定評価額は

①当該宅地見込地の熟成度、すなわち、

②宅地開発事業に着手できる合理的状況が整うまでの期間及び

③その蓋然性により、

④適用する鑑定評価の手法が異なる。

したがって、

鑑定評価手法の適用に際しては、

①当該宅地見込地の熟成の程度を、

②地域分析及び個別分析を通じて、

③的確に判定することが前提となる。

なお、宅地見込地の鑑定評価においては、

熟成度が高い場合には、転換後の用途的地域の地域要因個別的要因をより重視すべき。

熟成度が低い場合には、転換前の用途的地域の地域要因個別的要因をより重視すべき。

 

その際、

①変動の原則及び予測の原則を活用して、

②宅地への転換の程度を適切に把握し、

③転換すると見込まれる転換後の種別の

④地域、土地に係る地域要因個別的要因を重視すべきであるが、

転換の程度の低い場合においては、

①転換前の種別の地域・土地に係る地域要因・個別的要因をより重視すべきである。

 

地域分析に当たっては、

①対象不動産に係る市場の特性の把握の結果を踏まえて、

②地域要因及び標準的使用の現状と、

③将来の動向とを合わせて分析し、

④標準的使用を判定しなければならない。

その際、

価格形成要因は変動の過程にあることを踏まえ、

①変動の原則を活用して近隣地域の過去からの推移を、

②予測の原則を活用して近隣地域の将来の動向を、

③それぞれ把握分析しなければならない。

更に、

①都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度、

②当該宅地見込地の宅地化を助長し、または

阻害している行政上の措置又は規制、

③付近における公共施設公益的施設の

整備動向、

④付近における住宅店舗工場等の建設の動向を総合的に勘案する必要がある。

 

また、地域分析の結果を踏まえ、

最有効使用の原則を活用して

個別分析により対象不動産の最有効使用を判定しなければならない。

その際、

宅地見込地のように、

特に価格形成要因に影響を与える

地域要因の変動が

客観的に予測される場合には、

変動の原則を活用して、

当該変動に伴い対象不動産の使用方法が

変化する可能性があることを勘案して

最有効使用を判定する必要がある。

 

地域要因の変動の予測に当っては、

①予測の原則を活用して、

②予測の限界を踏まえ、

③鑑定評価を行う時点で一般的に収集可能かつ

④信頼できる情報に基づく

⑤当該変動の時期及び

⑤具体的内容についての

⑥実現の蓋然性の高いことが認められなければならない。

さらに、

宅地見込地に最有効使用の原則を活用する場合には、

①造成の難易 及び

②その必要の程度、

③造成後の宅地としての有効利用度 

を総合的に勘案する必要がある。

 

 

 

控除法

当該見込地について、

価格時点において、

転換後・造成後の更地を想定し、

その価格から通常の造成費相当額 及び

発注者が負担すべき通常の付帯費用を控除し、

その額を当該見込地の熟成度に応じて

適切に修正して得た額

 

 

熟成度修正

①鑑定評価の対象となる宅地見込地の存する地域が、

②自然社会経済行政的要因の影響により

③宅地地域化する期間 及び

④蓋然性

⑤に応じて減額修正すること。

熟成度の判定に当たっては、

①周辺地域の地域要因の変化の推移、動向が

②それらの地域の土地の変化の動向予測に

当たって有効な資料となる。

さらに、

次の4事項を総合的に勘案すべき。

①都市の外延的発展を促進する要因の地域要因に及ぼす影響度 

②付近における公共施設及び公益的施設の整備の動向

公共施設及び公益的施設の整備等のインフラの整備状況は、

宅地見込地が宅地化するまでの期間及び

転換後の宅地に関する需要、価格水準等に影響を及ぼす。

 

公共施設等に関する地域要因の動向は、

市町村等の地域開発計画等から把握することが可能であり、

これらの分析により当該宅地見込地の存する

地域の熟成度を判断する資料ができる。

 

③付近における住宅、店舗、工場地等の建設の動向

近隣地域及びその周辺の地域における住宅店舗工場等の

建設の動向を考察することにより、

当該宅地見込地の存する地域が宅地地域に転換する時期及び

転換後の当該地域内における最有効使用を判断することができる。

 

具体的には、周辺地域において工場の建設が予定されている場合には、

工場完成後に工場勤務者による住宅需要が見込めるため、

熟成度の判定に当たっては、

工場の規模、完成時期等を分析することとなる。

 

④造成の難易 及び その必要の程度。

付近における道路等の公共施設の整備の状況、

当該宅地見込地の地質地盤形状地表の状態及び

転換後における最有効使用を把握することにより、

造成工事の難易、造成に要する期間及び費用等を判断することが出来る。

 

造成工事の難易や期間によっては、

開発に着手する時期が遅れるなど

宅地地域化する期間に影響を及ぼすため、

熟成度の判定に当たっては、

当該宅地見込地の地盤・形状等の個別的要因や

付近における造成事例を分析して、

 

造成に要する期間等を把握する必要がある。

不動産の価格は、

①不動産の効用 

②相対的希少性 

③不動産に対する有効需要

三者に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが、

 

①その価格形成過程を考察するとき、

そこに基本的な法則性を認めることが出来る。

 

②不動産の鑑定評価は、

その不動産の価格形成過程を追及し、

分析することを本質とするものであるから、

③不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するためには、

④鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、

⑤これらを具体的に現した

不動産の価格に関する諸原則を活用すべきである。

 

これらの原則は、

①一般の経済法則に基礎を置くものであるが、

②鑑定評価の立場からこれを認識し、

表現したものである。

 

なお、 

これらの原則は、

孤立しているものではなく、

直接的又は間接的に

相互に関連しているものであることに

留意しなければならない。

 

■最有効使用

 

不動産の価格は、

その不動産の効用が

最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)

を前提として把握される価格を標準として形成される。

 

この場合の最有効使用は、

現実の社会経済情勢の下で客観的に見て、

良識と通常の使用能力をもつ人による

合理的かつ合法的な

最高最善の使用方法に基づくものである。

 

不動産、

特に土地は用途の多様性という人文的特性を有するため、

同一の不動産について

異なった使用方法を前提とする需要が競合する。

 

需要者の間に競争が生じる結果、

最も高い価格を提示できる者がその不動産を取得できるが、

合理的な市場においてそのような価格を提示できるのは、

当該不動産を利用することによる効用が最大となる使用方法、

つまり、

最有効使用を前提とした場合に限られる。

したがって、

不動産の価格は最有効使用を前提とした場合である。

なお

①ある不動産についての現実の使用方法は、

②必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、

③不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、

④当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意する。

 

■変動の原則

変動の原則とは

一般に財の価格は、

その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。

不動産の価格も、

多数の価格形成要因の相互因果関係の

組み合わせの流れである変動の過程

において形成される。

 

不動産の価格は常に変動の過程にあるため、

不動産の鑑定評価に当っては、

価格時点を確定することが必要である。

また、

不動産の利用形態が最適なものであるか、

仮に現在最適なものであっても、

時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、

これらは常に検討されなければならない。

 

①財の価格は、

その財の将来の収益性等についての

予測を反映して定まる。

 

②不動産の価格も、

価格形成要因の変動についての

市場参加者による予測によって左右される。

 

したがって、

①不動産の鑑定評価にあたっては、

②価格形成要因がどのように変化するかについて

③的確に予測しなければならない。

このためには

①常に価格形成要因の変動に注意を払う必要があり、

②この推移および動向を分析しなければならない。

 

 

価格時点と標準的使用と変動の原則

一般に財の価格は、

その価格を形成する要因の変化に伴って変動する。

不動産の価格も、

多数の価格形成要因の相互因果関係の

組み合わせの流れである変動の過程において形成される。

 

不動産の価格は常に変動の過程にあるため、

不動産の鑑定評価に当たっては、

価格時点を確定することが必要である。

また、

不動産の利用形態が最適なものであるか、

仮に現在最適なものであっても、

時の経過に伴ってこれを持続できるかどうか、

これらは常に検討されなければならない。

なお、

①不動産の属する地域は固定的なものではなく、

②地域の特性を形成する地域要因も

常に変動するものであることから、

③地域分析にあたっては、

④対象不動産に係る市場の特性の把握の結果を

踏まえて地域要因及び標準的使用の

⑤現状と将来の動向を合わせて分析し、

⑥標準的使用を判定しなければならない。

 

■代替の原則

不動産の価格は、

不動産の効用

相対的希少性

不動産に対する有効需要

三者に影響を与える諸要因の

相互作用によって形成されるが、

①その価格形成過程を考察するとき、

そこに基本的な法則性を認めることが出来る。

②不動産の鑑定評価は、

その価格形成過程を追及し、

分析することを本質とするものであるから、

③不動産の経済価値に関する適切な最終判断に到達するためには、

④鑑定評価に必要な指針としてこれらの法則性を認識し、かつ、

⑤これらを具体的に現した諸原則を活用すべきである。

 

①代替性を有する二以上の財が存在する場合には、

これらの財の価格は相互に影響を及ぼして定まる。

②不動産の価格も、

代替可能な他の不動産又は財の価格と

相互に関連して形成される。

 

■均衡の原則と適合の原則

均衡の原則と適合の原則の関係

均衡の原則は、

「建物と敷地の規模の対応関係」等、

不動産の内部構成要素の均衡状態に、

 

適合の原則は、

「建物とその環境の適合の状態」等、

不動産とその外部環境との適合状態に、

それぞれ着目した原則である。

 

不動産は、

内部構成要素の均衡が取れており、

周辺環境にも適合している場合に、

その効用が最高度に発揮されるため、

均衡の原則・適合の原則は、ともに

対象不動産の最有効使用を判定するための有力な指針

といえる。

 

 

 

不動産の鑑定評価に当たっては、

基本的事項として、対象不動産、

価格時点及び価格又は賃料の種類を

確定しなければならない。

第1節 対象不動産の確定
不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず、鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定することのみならず、鑑定評価の対象となる所有権及び所有権以外の権利を確定する必要がある。
対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定することであり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものである。

 

(1)鑑定評価の条件設定の意義
鑑定評価に際しては、現実の用途及び権利の態様並びに地域要因及び個別的要因を所与として不動産の価格を求めることのみでは多様な不動産取引の実態に即応することができず、社会的な需要に応ずることができない場合があるので、条件設定の必要性が生じてくる。

 

対象確定条件

対象不動産の確定に当たって

必要となる鑑定評価の条件を、

対象確定条件という。

 

対象確定条件は、

①対象不動産の所在/範囲等の物的事項及び

②対象不動産の所有権/賃借権等の

対象不動産の権利の態様に関する事項

を確定するために必要な条件である。

 

対象確定条件は、

①対象不動産に係る諸事項についての

調査/確認を行ったうえで、

②依頼目的に照らして

その条件の妥当性を検討しなければならない。

 

①不動産が土地のみの場合

又は土地及び建物等の結合により

構成されている場合において、

その状態を所与として

鑑定評価の対象とすること

 

②不動産が土地及び建物等の結合により

構成されている場合において、

その「土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)

として鑑定評価の対象とすること

(この場合の鑑定評価を

独立鑑定評価という。)。

 

③不動産が土地及び建物等の結合により

構成されている場合において、

その状態を所与として、

その不動産の「構成部分」を

鑑定評価の対象とすること

(この場合の鑑定評価を

部分鑑定評価という。)。

 

④不動産の「併合又は分割」を前提として、

「併合後又は分割後」の不動産を

単独のものとして鑑定評価の対象とすること

(この場合の鑑定評価を

併合鑑定評価又は分割鑑定評価という。)。

 

(5)造成に関する工事が完了していない土地

又は建築に係る工事が完了していない建物について、

当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること

(この場合の鑑定評価を未竣工建物等鑑定評価という。)。

 

 

 なお、上記に掲げるもののほか、

対象不動産の権利の態様に関するものとして、

価格時点と異なる権利関係を前提として

鑑定評価の対象とすることがある。

 

 

 

対象確定条件を設定するに当たっては、

対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を

行った上で、

依頼目的に照らして、

鑑定評価書の利用者の利益を

害するおそれがないかどうかの観点から

当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。

 

 

なお、未竣工建物等鑑定評価を行う場合は、

上記妥当性の検討に加え、

価格時点において想定される竣工後の不動産に係る

物的確認を行うために必要な設計図書等

及び権利の態様の確認を行うための請負契約書等を

収集しなければならず、

さらに、当該未竣工建物等に係る

法令上必要な許認可等が取得され、

発注者の資金調達能力等の観点から

工事完了の実現性が高いと判断されなければならない。

 

証券化対象不動産の未竣工建物等鑑定評価は、上記なお書きに定める要件に加え、工事の中止、工期の延期又は工事内容の変更が発生した場合に生じる損害が、当該不動産に係る売買契約上の約定や各種保険等により回避される場合に限り行うことができる。

 

基本的事項確定の必要性

不動産の鑑定評価にあたっては、

基本的事項として、

対象不動産/価格時点/価格又は賃料の種類

を確定しなければならない。

 

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず

①鑑定評価の対象となる土地又は建物等を

物的に確認することのみならず、

②鑑定評価の対象となる

所有権及び所有権以外の権利

を確定する必要がある。

 

対象不動産の確定は、

①鑑定評価の対象を

明確に他の不動産と区別し、

特定することであり、

②それは鑑定士が

鑑定評価の依頼目的及び

条件に照応する対象不動産と、

③当該不動産の

現実の利用状況とを照合して確認する

という実践行為を経て、

④最終的に確定されるべきものである。

 

対象不動産の確定が必要な理由

不動産は、

①その物的な範囲等が可変的であり、また、

②所有権/賃借権等の権利の態様が

複合的・重層的で複雑な様相を呈している。

そのため、

③鑑定評価の対象となる範囲/権利が変わると、

③鑑定評価額も変化するため、

対象不動産の確定が必要である。

 

 

価格時点の確定が必要な理由

価格時点とは、

不動産の価格の判定の基準日である。

①不動産の価格を形成する価格形成要因は、

②時の経過により変化するものであり、

③価格時点が変わると

鑑定評価額も変化するため、

価格時点の確定が必要である。

 

価格又は賃料の確定が必要な理由

不動産の鑑定評価によって求める価格は、

基本的には正常価格であるが、

多様な不動産取引に即応し

社会的な需要に応ずるために、

鑑定評価の依頼目的及び条件に応じて、

限定特殊特定価格を求める場合があるので、

依頼目的及び条件に即して

価格の種類を適切に判断し、明確にすべき。

 

価格の種類が変わることにより、

鑑定評価額が変わる場合があるので、

価格の種類を確定する必要がある。

 

 

対象不動産の確認・必要性

 

対象不動産の確認とは、

①「基本的事項の確定」により

確定された対象不動産が

②現実にその通り存在するかを

確認する作業をいう。

 

対象不動産の確認に当たっては、

①「基本的事項」により確定された

対象不動産について、

②その内容を明瞭にしなければならない。

 

対象不動産の確認は、

①対象不動産の物的確認/権利の態様の

確認に分けられ、

②実地調査/聴聞/公的資料の確認等により、

的確に行う必要がある。

 

不動産の鑑定評価にあたっては、

基本的事項として、

対象不動産/価格時点/価格又は賃料の種類

を確定しなければならない。

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず

①鑑定評価の対象となる

土地又は建物等を

物的に確認することのみならず

②鑑定評価の対象となる 

所有権及び所有権以外の権利

を確定する必要がある。

 

対象不動産の確定は、

①鑑定評価の対象を

明確に他の不動産と区別し、

特定することであり、

②それは鑑定士が

鑑定評価の依頼目的及び条件に

照応する対象不動産と、

③当該不動産の

現実の利用状況とを照合して

確認するという実践行為を経て

④最終的に確定されるべきものである。

 

「確認」を省略してはならない理由

①依頼の受付に続く

基本的事項の確定においては、

②依頼者の提示した対象確定条件により、 

③観念的に

対象不動産の範囲等が

確定されているに過ぎない。

 

対象不動産を最終的に確定するためには、

不動産鑑定士が、対象不動産について

②現実にその通り存在しているかを

確認する必要がある。

③観念的に確定された事項と、

確認した事項が一致して

④最終的に対象不動産が確定されるが、

⑤両者が一致しなければ

対象不動産の確定が出来ず

鑑定評価が出来ない。

 

したがって、

①対象不動産の確認は、

②適正な鑑定評価の前提となるもので、

③実地調査の上、閲覧、聴聞等を通じて的確に行うべきであり、

③いかなる場合においてもこの作業を省略してはならない。

④対象不動産の確認を行った結果が、

⑤依頼者から設定された対象確定条件と

相違する場合には、

⑥再度依頼者に説明の上、

対象確定条件の改定を求める等

適切な措置を講じなければならない。

 

不動産の鑑定評価を行う場合、

不動産は

①その範囲が可変的であり、

②権利の態様については所有権、

地上権等の物権のみならず

③外見上からは不分明な賃借権等の債権も

対象となり、

④これらが複合的に存在する等

対象が複雑な様相を呈するため、

対象不動産の確定が必要となる。

 

不動産は、

①その物的な範囲等が可変的であり、

②所有権賃借権等の権利の態様が

複合的重層的で複雑な様相を呈している。

③そのため鑑定評価の対象となる

範囲や権利が変わると

④鑑定評価額も変化するため、

対象不動産の確定が必要である。

  

想定上の条件

対象確定条件により確定された

対象不動産について、 

鑑定評価に際しては、

①現実の地域要因個別的要因を所与

として不動産の価格を求めることのみでは、

②多様な不動産取引に即応することが出来ず、

③社会的需要に応ずることが出来ない場合があるので、

④依頼目的に応じ対象不動産に係る価格形成要因のうち

⑤地域要因/個別的要因に想定上の条件を付加する場合があるが、

 

この場合には依頼により

付加する想定上の条件が、

①実現性

ⅰ依頼者との間で

条件付加に係る鑑定評価依頼契約上の合意があり、

ⅱ当該条件を実現するための

行為を行うものの事業遂行能力等を

勘案したうえで

ⅲ当該条件が実現する確実性が認められること

 

②合法性

公法上私法上の諸規制に反しないこと。

 

③「関係当事者及び第三者」の利益を

害する恐れがないか等

ⅰ依頼者及び鑑定評価の結果について

依頼者と密接な利害関係を有する者のほか、

 

ⅱ法律に義務付けられた

鑑定士による鑑定評価を踏まえ

不動産の生み出す収益を原資として

発行される証券の購入者、

 

ⅲ鑑定評価を踏まえ

設定された抵当権をもとに発行される

証券の購入者)

 

の観点から妥当なものでなければならない。

 

なお、想定上の条件を設定して

鑑定評価を行った場合、

鑑定評価報告書に

①想定上の条件について

それらが妥当なものであると判断した根拠

を明らかにするとともに、

②必要があると認められるときは、

当該条件が付加されない場合の

価格等の参考事項を記載すべきである。

また、

想定上の条件が

妥当性を欠くと認められる場合には、

依頼者に説明の上、

妥当な条件へ改定することが必要。

 

Ex)土壌汚染が存在し、「汚染の除去等の措置がなされたものとして」という条件付加

①ⅰ所有者や購入予定者等の

対象不動産の現況を変更する

権限を持つものに、

土壌汚染の除去等を行う意思や

着手の確認を行い、

依頼書や確認書等に

その旨を記載するものとする。

 

 ⅱ合わせてその変更を行う資力

があるかどうかを勘案

 

②土壌汚染対策法の規定による

要措置区域・形質変更時要届出区域

の指定等がなされている土地を含む場合、

汚染の除去等は法の手続きによって

行われることから、

当該条件付加は妥当性を欠く。

(有害物質・調査義務等も検討する。)

現状を所与とする鑑定評価を行うべき。

 

③依頼目的が担保評価や

三者への売却価格の参考とするための

鑑定評価の場合、

現況と異なる個別的要因を

前提とした鑑定評価を行うことによって、

対象不動産の価格に関する

関係当事者及び第三者の適切な判断を

誤らせる可能性を有しており

妥当性を欠く。

現状を所与とする鑑定評価を行うべき。

 

証券化対象不動産の鑑定評価においては、

投資家保護の観点から

土壌汚染の価格に与える影響についての

結論を求められるため、

当該条件設定は妥当性を欠く。

■価格時点論

不動産の鑑定評価にあたっては、

基本的事項として、

対象不動産/価格時点/価格又は賃料の種類

を確定しなければならない。

 

価格時点とは、

不動産の価格の判定の基準日である。

 

不動産の価格は効用 相対的希少性 有効需要

三者の相関結合によって生じる経済価値を

貨幣額をもって表示したものであり、

この不動産の経済価値は

これら三者を動かす価格形成要因の相互作用

によって決定されるが、

要因それ自体も

常に変動する傾向を持っている。

また、

個別の不動産の価格は、

その不動産が属する用途的地域の価格水準

という大枠の下で形成されるが、

不動産の属する地域は

固定的なものではなくて、

常に拡大縮小/集中拡散/発展衰退等

の変化の過程にある。

 

ところで、

不動産の鑑定評価は、

その不動産の価格形成過程を追及し、

分析することを本質とするものであるから、

鑑定評価を行うに当たっては、

不動産の価格形成要因の

推移及び動向を十分に

分析しなければならない。

 

①価格形成要因は、

時の経過により変動し、

不動産の価格は常に変化するものであるから、

不動産の価格は

その判定の基準となった日においてのみ

妥当するものである

(=時の経過により変動するものであり、

価格時点が変わると鑑定評価額も変化する。)

 

②したがって、

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、

不動産の価格の判定の基準日

を確定する必要があり、

この日を価格時点という。

 

過去時点

過去時点の鑑定評価は、

①対象不動産の確認等が可能であり、かつ

②鑑定評価に必要な要因資料及び

事例資料の収集が可能な場合

に限り行うことが出来る。

 

③また時の経過により

対象不動産及び近隣地域が

価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に

変化している場合もあるので

 

④このような事情変更のある場合の

価格時点における対象不動産の

確認等については、

 

⑤価格時点に近い時点の

確認資料等を出来る限り収集し、

それを基礎に判断すべきである。


将来時点

将来時点の鑑定評価は、

①対象不動産の確定

②価格形成要因の把握、分析、

③最有効使用の判定 

について、

すべて想定し、予測することとなり、

④また収集する資料も

鑑定評価を行う時点までのものに限られ、

不確実にならざるを得ないので、

⑤原則としてこのような鑑定評価は

行うべきではない。

 

⑥ただし、

特に必要がある場合において、

鑑定評価上妥当性を欠くことがないと

認められるときは、将来の価格時点を

設定することが出来るものとする。

 

■価格の種類

正常価格と限定価格

 

不動産の鑑定評価によって求める価格は、

①基本的には正常価格であるが、

②鑑定評価の依頼目的に対応した条件に応じて

限定特定特殊価格を求める場合があるので、

③依頼目的に対応した条件に即して

価格の種類を適切に判断し、

明確にすべきである。

なお、

評価目的に応じ、

特定価格を求めなければならない場合

があることに留意しなければならない。

 

正常価格とは、

市場性を有する不動産について、

現実の社会経済情勢の下で合理的

と考えられる条件を満たす市場

で形成されるであろう市場価値

を表示する適正な価格をいう。

 

限定価格とは、

①市場性を有する不動産について、

②不動産と取得する他の不動産との併合、又は

③不動産の一部を取得する際の分割等に

基づき、

④正常価格と同一の市場概念の下において

形成されるであろう市場価値と

かい離することにより、

⑤市場が相対的に限定される場合における

⑥取得部分の

⑦当該市場限定に基づく経済価値を

適正に表示する価格をいう。

 

①借地権者が底地の併合を目的

とする売買に関連する場合

②隣接不動産の併合を目的

とする売買に関連する場合

③経済合理性に反する不動産の分割等を前提

とする売買に関連する場合

 

限定価格は、

市場性を有する不動産についての価格

である点は正常価格と共通している。

しかし、

合理的な市場を前提とする正常価格と異なり、

市場限定下における特定の当事者間においてのみ経済合理性が認められる価格である。

 

隣接地併合

ある土地を隣接地と併合した場合、

併合後の土地の価格が、

併合前のそれぞれの価格の合計額より

高くなることがあるが、

これは、併合前の土地の

「最有効使用」に比し、

併合後の土地の「最有効使用」の程度が

上昇するため増分価値が生じるため。

 

ある土地の所有者が

隣接地を併合しようとする場合、

併合による増分価値が生じる際には、

正常価格を上回る対価を持って

取引を行っても、

特定の当事者間において経済合理性が成り立つため、

当該特定当事者間の市場限定に基づく

限定価格を求め得ることになる。

したがって、

隣接地の併合であっても、

整形地同士の併合等、

増分価値が生じない場合は、

正常価格を求めることとなる。

 

1整形地化 2画地規模拡大 3接道条件改善等

の理由により最有効使用の程度が

上昇するため、

併合後の土地の経済価値が、 

併合前のそれぞれの土地の経済価値の合計を 

上回ることがある(増分価値発生)。

 

このような場合、

①併合前の一方の土地所有者は、

②他方の土地の取得に際し、

③第三者がその土地を取得する場合

と比べて増分価値を享受できる分だけ、

④正常価格よりも高い価格を

提示しても経済合理性が成り立つため、

⑤第三者の介入する余地がなくなることから、

求める価格は限定価格となる。

 

隣接地併合に係る限定価格の求め方(更地の場合)

まず、

①併合前の各画地の正常価格と、

②併合後の一体画地としての正常価格を求め、

③併合後の一体画地としての価格から、

④併合前の各画地の価格の合計額を控除して、

⑤増分価値を求める。

次に、

①この増分価値のうち、

②対象地に配分されるべき適正な額を

③対象地の正常価格に加算して

決定するものとする。

 

なお、

併合を目的とする場合でも、

増分価値が発生しない場合は、

市場が相対的に限定されることはないので、

限定価格とはならない。

 

限定価格評価における価格諸原則の活用

正常価格とは、

市場参加者が最有効使用を前提とした価値判断

を行うことを前提とした価格だから、

限定価格の評価に当たっては、

最有効使用の原則を活用し、

併合前の各画地と、

併合後の一体地としての画地の、

それぞれの最有効使用を

適切に判定する必要がある。

また、

不動産のある部分が

その不動産全体の収益獲得に寄与する度合いは、

その不動産全体の価格に影響を及ぼす

(寄与の原則)。

 

併合により生じる増分価値は

併合される両者が寄与して

生じさせたものであるので、

限定価格の評価に当たっては、

「寄与の原則」を活用し、

増分価値のうち

対象地に配分されるべき適正な額を、

適切な方法

(単価比・総額比、買入限度額比等)

により求めるものとする。


Ⅰ 価格
不動産の鑑定評価によって求める価格は、

基本的には正常価格であるが、

鑑定評価の依頼目的に対応した条件により

限定価格、特定価格又は特殊価格を求める

場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。


1.正常価格

正常価格とは、

市場性を有する不動産について、

現実の社会経済情勢の下で

合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する

適正な価格をいう。

この場合において、

現実の社会経済情勢の下で

合理的と考えられる条件を満たす市場とは、

以下の条件を満たす市場をいう。

 

1   市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、 参入、退出が自由であること。

    なお、ここでいう市場参加者は、

自己の利益を最大化するため

次のような要件を満たすとともに、

慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。

 

① 売り急ぎ、買い進み等をもたらす

特別な動機のないこと。

② 取引を成立させるために必要となる

通常の知識や情報を得ていること。

③ 取引を成立させるために通常必要と認められる

労力、費用を費やしていること。

④ 対象不動産の

最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。

⑤ 買主が通常の資金調達能力を有していること。

 

 

2 取引形態が、

市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。

 

3 対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。

 


2.限定価格
限定価格とは、
市場性を有する不動産について、
不動産と取得する他の不動産との併合

又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき

正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、

市場が相対的に限定される場合における

取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を

適正に表示する価格をいう。

 

限定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
(2)隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
(3)経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合

 


3.特定価格

特定価格とは、
市場性を有する不動産について、
法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、
正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより

正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における

不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。

特定価格を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

(1)各論第3 章第1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

 

(2)民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

 

(3)会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合

 

 

② 特定価格を求める場合の例について
特定価格を求める場合の例として掲げられているものについて、それぞれの場合ごとに特定価格を求める理由は次のとおりである。

 

ア 各論第3章第1節に規定する

証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、

投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合

 

 

 投資法人等の投資対象資産としての

不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、

資産流動化計画等により

投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とするが、

その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には

特定価格として求めなければならない。

なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。

    この場合は、基本的に収益還元法のうちDCF法により求めた試算価格を標準とし、直接還元法による検証を行って求めた収益価格に基づき、比準価格及び積算価格による検証を行い鑑定評価額を決定する。


イ 民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合

    鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするものであるため、早期売却による減価が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格として求めなければならない。

この場合は、通常の市場公開期間より短い期間で売却されるという前提で、原則として比準価格と収益価格を関連づけ、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。
なお、比較可能な事例資料が少ない場合は、通常の方法で正常価格を求めた上で、早期売却に伴う減価を行って鑑定評価額を求めることもできる。

 

ウ 会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合

鑑定評価に際しては、上記鑑定評価目的の下で、現状の事業の継続を前提とする価格を求めるものであるため、対象不動産の利用現況を所与とすることにより、前提とする使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。
この場合は、原則として事業経営に基づく純収益のうち不動産に帰属する純収益に基づく収益価格を標準とし、比準価格を比較考量の上、積算価格による検証を行って鑑定評価額を決定する。


Ⅱ 賃料

1.正常賃料
正常賃料とは、正常価格と同一の市場概念の下において新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料(新規賃料)をいう。

2.限定賃料

3.継続賃料
継続賃料とは、不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料をいう。

地域分析と個別分析

①不動産の価格は、

その不動産の最有効使用を前提とした価格

を標準として形成されるものであるから、

②不動産の鑑定評価にあたっては、

③地域分析/個別分析を通じて

④対象不動産の最有効使用を判定する必要がある。

 

地域分析とは

①その対象不動産がどのような地域に存するか、

②その地域はどのような特性を有するか、

③対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、

④それらの特性はその地域内の不動産の

利用形態と価格形成について

⑤全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、

判定することをいう。

 

不動産は、

他の不動産と共に、

用途的に同質性を有する一定の地域

を構成してこれに属することを通常とし、

地域は、

その規模、構成の内容、機能等にわたって

それぞれ他の地域と区別されるべき

特性を有している。

 

近隣地域の特性

①通常、その地域に属する不動産の

一般的な標準的使用に具体的に表れるが、

この標準的使用は、

②利用形態から見た地域相互間の

相対的位置関係及び 

価格形成を明らかにする手がかりになるとともに、

③その地域に属する不動産のそれぞれについての

最有効使用を判定する有力な標準となるものである。

 

個別分析とは

①対象不動産の個別的要因が

②対象不動産の利用形態・価格形成について

どのような影響力を持っているかを分析して

③その最有効使用を判定することをいう。

④個々の不動産の最有効使用は、

⑤一般に近隣地域の地域の特性の

制約下にあるので、

個別分析にあたっては、

⑥特に近隣地域に存する不動産の

標準的使用との相互関係を明らかにし

判定することが必要である。

 

個別分析にあたっては、

①地域の標準的な土地等との比較において、

②画地条件/街路条件等に係る個別的要因が

③対象不動産の利用形態/価格形成に与える

影響の程度を判断しなければならない。

 

 

 

同一需給

地域分析とは、

その対象不動産がどのような地域に存するか、

その地域はどのような特性を有するか、

対象不動産に係る市場はどのような特性を有するか、

それらの特性は

その地域内の不動産の利用形態と

価格形成について

全般的にどのような影響力を持っているかを分析し、

判定することをいう。

 

地域分析に当たって特に重要な地域は、

用途的観点から区分される地域(用途的地域)、すなわち

近隣地域とその類似地域と、

近隣地域及びこれと相関関係にある類似地域を含むより広域的な範囲すなわち

同一需給圏である。

 

同一需給圏とは

①一般に対象不動産と代替関係が成立して、

②その価格の形成について

相互に影響を及ぼすような関係にある

他の不動産の存する圏域をいう。

 

③それは、近隣地域を含んでより広域的であり、

④近隣地域と相関関係にある

類似地域等の存する範囲を規定するものである。

 

同一需給圏は、

①不動産の種類・性格及び規模

に応じた需要者の選好性によって、

②その地域的範囲を異にするものであるから、

③不動産の種類、性格及び規模に応じて

需要者の選好性を的確に把握した上で

適切に判定する必要がある。

 

建物及びその敷地と更地の同一需給圏について

対象不動産が建物及びその敷地である場合、

その同一需給圏は、

一般に当該建物及びその敷地の合理的用途、すなわち

更地としての最有効使用に応じた同一需給圏と

一致する傾向がある。

しかし、

建物及びその敷地と更地の最有効使用の内容は

必ずしも一致するものではなく、

当該建物及びその敷地一体としての用途/規模/品等等によっては、

代替関係にある不動産の存する範囲が異なるために、

当該敷地の用途に応じた同一需給圏の範囲と

一致しない場合がある。

 

 
 

 

 

 

市場分析と個別分析

不動産の価格は、

①その不動産の最有効使用を前提

とした価格を標準として形成されるものであるから、

②価格形成要因の分析にあたっては、

③収集された資料に基づき、

④一般的要因を分析すると共に、

⑤地域分析 個別分析を通じて

⑥対象不動産について

その最有効使用を判定しなければならない。

 

個別分析とは

①対象不動産の個別的要因が

対象不動産の利用形態/価格形成について

どのような影響を持っているかを分析して、

②その最有効使用を判定することをいう。

 

個々の不動産の最有効使用は、

①一般に対象不動産の属する地域(近隣地域)

の特性の制約下にあるが、

②必ずしも当該地域における不動産の

標準的使用に一致するものではなく、

③対象不動産の各個別的要因に基づく市場の特性

によって大きく異なりえるものである。

 

以上のように、

個別的要因は、

①対象不動産の市場価値を

個別的に形成しているものであるため、

②個別的要因の分析においては、

③市場分析によって対象不動産に係る

典型的な需要者を明確にし、

④当該需要者がどのような個別的要因に

着目して行動し、

⑤対象不動産と代替競争の関係にある不動産と比べた

優劣及び競争力の程度を

⑥どのように評価しているかを

的確に把握したうえで、

最有効使用を判定しなければならない。

 

対象不動産と代替競争関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度

を把握するに当たっては、

①同一用途の不動産の

需要の中心となっている価格帯及び

主たる需要者の属性

②対象不動産の立地/規模/機能/周辺環境等

に係る需要者の選好

③対象不動産に係る引き合いの多寡  

等に留意すべきである。

 

標準的使用の用途と

異なる用途の可能性

が考えられる場合には、

それぞれの用途に対応した需要者の観点から

各個別的要因の分析を行ったうえで

最有効使用を判定する必要がある。

 

最有効使用判定上の留意点

建物及びその敷地の最有効使用の判定上の留意点

更地の最有効使用の判定とは、

当該宅地の効用を最高度に発揮する用途

を判定することをいうが、

建物及びその敷地の最有効使用の判定とは、

更地としての最有効使用を踏まえて、

①継続使用すること、

②用途変更等をすること、

③取り壊すこと、 

のどれが妥当であるかを判定することをいう。

 

 
 

最有効使用と標準的使用との関係

不動産の価格は、

その不動産の最有効使用を前提として把握される価格

を標準として形成されるものであるから、

価格形成要因の分析に当たっては、

地域分析及び個別分析を通じて

対象不動産についてその最有効使用を

判定しなければならない。

 

地域の特性は、

①通常、その地域に属する不動産の

標準的使用に具体的に表れるが、

②この標準的使用は、

その地域の不動産のそれぞれについての最有効使用

を判定する有力な標準となるものである。

一方、

個別分析とは、

対象不動産の個別的要因が

対象不動産の利用形態と価格形成に

具体的にどのような影響力を持っているかを

分析してその最有効使用を判定することをいう。

 

(原則)個々の不動産の最有効使用は、

一般に近隣地域の地域の特性の制約下にあるので、

個別分析に当たっては、

特に近隣地域に存する不動産の標準的使用との

相互関係を明らかにし判定することが必要である。

すなわち、

 
 

 

(例外)なお、対象不動産の位置規模環境等によっては、

標準的使用の用途と異なる用途の可能性が考えられるので、

こうした場合には、

それぞれの用途に対応した個別的要因の分析

を行ったうえで最有効使用を判定することに

留意すべきである。

 

最有効使用と標準的使用が異なる場合

 Ex1)戸建住宅地において、

近辺で大規模なマンション開発が行われるとともに、

立地に優れ高度利用が可能なことから、

マンション適地と認められる大規模な画地が存する場合。

 

Ex2)中高層事務所として用途が純化された地域において、

交通利便性に優れ広域的な集客力を有する

ホテルが存する場合。

 

 
 

同一需給圏とは、

①一般に対象不動産と代替関係が成立して、

②その価格の形成について

相互に影響を及ぼすような関係にある

③他の不動産の存する圏域をいう。

 

同一需給圏は、

①不動産の種類性格規模に応じた

需要者の選好性によって

②その地域的範囲を異にするものであるから、

③その種類性格規模に応じて

需要者の選好性を的確に把握した上で

④適切に判定する必要がある。

 

①一般に近隣地域と同一需給圏に存する類似地域とは、

②隣接すると否とにかかわらず、

その地域要因の類似性に基づいて、

③それぞれの地域の構成分子である不動産相互

の間に代替競争等の関係が成立し、

④その結果両地域は相互に影響を及ぼすものである。

 

したがって、取引事例は、

原則として近隣地域

又は同一需給圏内の類似地域

に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、

必要やむを得ない場合には

近隣地域の周辺の地域

に存する不動産に係るもの

のうちから選択すべきである。

 

しかし、

①対象不動産の最有効使用が標準的使用と異なり、

近隣地域の制約の程度が

著しく小さいと認められる場合等には、

②近隣地域の外かつ同一需給圏の類似地域の外

に存する不動産であっても、

③同一需給圏内に存し

④対象不動産とその用途規模品等等の類似性に基づいて、

⑤これら相互の間に代替競争等の関係

が成立する場合がある。

 

このような場合には

必ずしも地域概念にとらわれず、代替の原則を活用し、

同一需給圏内に存し対象不動産と代替競争等

の関係が成立していると認められる不動産

(同一需給圏内の代替競争不動産)

に係る取引事例を選択すべきである。

 

なお、

同一需給圏内の代替競争不動産に係る取引事例は、

①対象不動産との間に用途規模品等等からみた

類似性が明確に認められ、

②対象不動産の価格形成に関して

直接に影響を与えていることが

明確に認められることが必要。

 

移行地の場合の最有効使用判定上の留意点

移行地とは、

①宅地農地林地地域のうちにあって、

②細分されたある種別の地域から、

③他の種別の地域へと

④移行しつつある地域のうちにある土地 

をいう。

 

通常、標準的使用は、

その地域に存する不動産のそれぞれについての

最有効使用を判定する有力な標準となるものであるが、

移行地の場合、

近隣地域の標準的使用が最有効使用判定のための

有力な標準とならないことがある。

 

また、

将来に向かっての利用形態の移行を

前提とすることから、

具体的な資料に基づく十分な分析予測が必要であり、

移行の程度に応じた適切な価格形成要因の分析

を行わなければならない。

 

価格形成要因の分析に当っては、

移行後の地域・土地の種別 及び

移行の程度を適切に予測し、

①移行すると見込まれる移行後の種別の地域,

土地に係る地域要因・個別的要因を

より重視すべきであるが、

②移行の程度の低い場合においては、

③移行前の種別の地域・土地に係る

地域要因・個別的要因をより重視すべきである。

 

このような対象不動産の最有効使用の判定

にあたっては以下の点に留意すべきである。

①使用収益が将来相当の期間にわたって

持続し得る使用方法であること。

 
 

②効用を十分に発揮し得る時点が 

予測し得ない将来でないこと。

 
 

③価格形成要因は常に変動の過程にあることをふまえ、

特に価格形成要因に影響を与える地域要因の変動が

客観的に予測される場合には、 

当該変動に伴い対象不動産の使用方法が

変化する可能性があることを勘案すること。



 

なお、

地域要因の変動の予測にあたっては、

予測の限界を踏まえ、

鑑定評価を行う時点で一般的に収集可能かつ

信頼できる情報に基づき、

当該変動の時期及び具体的内容についての

実現の蓋然性が高いことが

認められなければならない。

 

大規模画地の最有効使用判定上の留意点

大規模画地は

①取引総額が高額になることから、

②法人・ディベロッパー等に需要者が限られ、

③景気・金融の動向等の影響を受けやすいので、

一般的要因の分析においては、

経済的要因の動向に特に留意し、

地域分析においては、

市場の特性について広域的な地域を対象とした

調査分析が必要。

最有効使用の判定においては、通常、

地域要因で判定した当該地域の標準的使用を

有力な標準とすべきである。

 

例)近隣地域の標準的使用が戸建て住宅地、

対象不動産が大規模画地であり、

用途の多様性が認められる場合、

1立地条件

2建築規制

3開発許可の可能性

4投資採算性

等に留意し、

①区画割して戸建住宅街とするか、

②マンション用地・スーパーマーケット用地等の

他の用途の可能性にも検討すべきである。

このように、

①対象不動産の位置、規模、環境等によっては、

標準的使用の用途と異なる用途の可能性

が考えられるので、

②こうした場合には、

それぞれの用途に対応した個別的要因の分析を行ったうえで

③最有効使用を判定しなければならない。