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対象不動産の確認・必要性

対象不動産の確認とは

①「基本的事項の確定」により

確定された対象不動産が

②現実にその通り存在するかを確認する作業 

をいう。

 

不動産の鑑定評価にあたっては、

基本的事項として、

対象不動産/価格時点/価格又は賃料の種類

を確定しなければならない。

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず

①鑑定評価の対象となる土地又は建物等を

物的に確認することのみならず、

②鑑定評価の対象となる所有権及び

所有権以外の権利

を確定する必要がある。

 

対象不動産の確定は、

①鑑定評価の対象を明確に

他の不動産と区別し、特定することであり、

②それは鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件

に照応する対象不動産と、

③当該不動産の現実の利用状況とを

照合して確認するという実践行為を経て

④最終的に確定されるべきものである。

 

「確認」を省略してはならない理由

①依頼の受付に続く

基本的事項の確定においては、

②依頼者の提示した対象確定条件により、 

③観念的に対象不動産の範囲等が

確定されているに過ぎない。

 

対象不動産を最終的に確定するためには、

不動産鑑定士が、対象不動産について

②現実にその通り存在しているかを確認する必要がある。

③観念的に確定された事項と、

確認した事項が一致して

④最終的に対象不動産が確定されるが、

⑤両者が一致しなければ

対象不動産の確定が出来ず

鑑定評価が出来ない。

したがって、

①対象不動産の確認は、

②適正な鑑定評価の前提となるもので、

③実地調査の上、閲覧、聴聞等を通じて的確に行うべきであり、

③いかなる場合においても

この作業を省略してはならない。

④対象不動産の確認を行った結果が、

⑤依頼者から設定された対象確定条件と

相違する場合には、

⑥再度依頼者に説明の上、

対象確定条件の改定を求める等

適切な措置を講じなければならない。

 

対象不動産の「確定」の必要性

不動産の鑑定評価を行う場合、

対象となる不動産は

①その範囲が可変的であり、

②権利の態様については所有権、

地上権等の物権のみならず

③外見上からは不分明な賃借権等の債権も

対象となり、

④これらが複合的に存在する等

その対象が複雑な様相を呈するため、

対象不動産の確定が必要となる。

 

不動産は、

①その物的な範囲等が可変的であり、

②所有権賃借権等の権利の態様が

複合的重層的で複雑な様相を呈している。

③そのため鑑定評価の対象となる範囲や権利が変わると

④鑑定評価額も変化するため、

対象不動産の確定が必要である。

 

資料論

不動産の鑑定評価は、

①収集し、整理されている関連諸資料を

具体的に分析して、

②対象不動産に及ぼす

自然的社会的経済的行政的な要因の影響

を判断し、

③対象不動産の経済価値に関する最終判断

に到達する

というプロセスをたどるものであるから、

その精度は、

①必要な関連諸資料の収集整理の適否及び、

②これらの諸資料の分析解釈の練達の程度

に依存するものである。

このように、鑑定評価の成果は、

①採用した資料によって左右されるもの

であるから、

②資料の収集整理は、

鑑定評価の作業に活用し得るように、

③適切かつ合理的な計画に基づき、

④実地調査、聴聞、公的資料の確認等により

⑤的確に行うものとし、

⑥公正妥当を欠くようなことが

あってはならない。

鑑定評価に必要な資料は

おおむね次のように分けられる。

 

確認資料

①不動産の物的確認及び

②権利の態様の確認に

③必要な資料をいう。

登記簿謄本、土地建物の図面、写真、不動産の所在地に関する地図等が挙げられる。

要因資料

①価格形成要因に照応する資料をいう。

一般的要因に係る一般資料、

地域要因に係る地域資料、

個別的要因に係る個別資料に分けられる。

 

一般資料・地域資料は、

平素からできるだけ広くかつ組織的に収集しておくべき。

個別資料は、

対象不動産の種類、対象確定条件等案件の相違

に応じて適切に収集すべきである。

 

事例資料

①鑑定評価の手法の適用に必要とされる

現実の取引価格、賃料等に関する資料をいう。

 

建設事例、取引事例、収益事例、賃貸事例等があげられる。

なお、

鑑定評価先例価格は

鑑定評価に当たって参考資料とし得る場合

があり、

売買希望価格等についても同様である。

 

例)継続支払賃料の鑑定評価で必要な資料

継続中の建物及びその敷地の賃貸借に基づく

実際支払賃料を改定する場合の鑑定評価額は、

差額配分法、利回り法、スライド法による賃料及び比準賃料を関連付けて

決定するものとする。

 

差額配分法

差額配分法は、

①対象不動産の経済価値に即応した

適正な実質賃料又は支払賃料と

②実際実質賃料又は実際支払賃料

との間に発生している差額について、

③契約の内容、契約締結の経緯等を

総合的に勘案して、

④当該差額のうち

貸主に帰属する部分を

適切に判定して得た額を

⑤実際実質賃料又は実際支払賃料に

加減して試算賃料を求める手法である。

この中で、

対象不動産の経済価値に即応した

適正な実質賃料は、

価格時点において想定される正常賃料であり、

積算法、賃貸事例比較法等により求めるものとする。

 

積算法

基礎価格は原価法により求め、

土地の再調達原価は取事比法により

求めることから、

更地(若しくは最有効使用の自建)

の取引事例が必要。

賃事比法

対象不動産と類似性を有する

「新規の」賃貸事例が必要となる。

 

利回り法  

①基礎価格に継続賃料利回りを乗じて得た額に

②必要諸経費等を加算して

試算賃料を求める手法

このなかで、継続賃料利回りとは、

①現行賃料を定めた時点における

②基礎価格に対する純賃料の割合を標準とし、

③契約締結時及びその後の

各賃料改定時の利回り、

④基礎価格の変動の程度、

⑤近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等における

対象不動産と類似の不動産の賃貸借等の事例

⑥又は同一需給圏内の代替競争不動産の賃貸借等 

の事例における利回り

を総合的に比較考量して求めるものとする。

この過程において次の通り取引事例、賃貸事例が必要となる。

 

1.現行賃料を定めた時点・契約締結時及び

各改定時の基礎価格査定の過程における

土地再調達原価査定の際に、

当該各時点に出来るだけ近い時点の更地

(または最有効使用の更地)

の取引事例が必要。

2.同一需給圏内の類似地域等における事例

から継続賃料利回りを検証するにあたって、

「賃貸借等の継続に係る」賃貸事例が必要となる。

 

スライド法

①現行賃料を定めた時点における純賃料に、

②変動率を乗じて得た額に、

③価格時点における必要諸経費等を加算して、

④試算賃料を求める手法である。

変動率の求め方

①現行賃料を定めた時点から

②価格時点までの間における

③経済情勢等の変化に即応する

変動分を表すものであり、

④土地および建物価格の変動、物価変動、

所得水準の変動等

を示す各種指数等を

総合的に勘案して求めるもとする。

 

変動率の査定に当たっては、

消費者物価指数や市街地価格指数等の各種指数に加え、

土地取引事例や賃貸事例も

時系列的に多数収集し、

その価格の推移について検討する必要がある。

 

継続賃料の賃貸事例比較法

①まず多数の継続に係る賃貸借等の事例を収集して適切な事例の選択を行い、

②これらに係る実際実質賃料に

③必要に応じて事情補正時点修正を行い、かつ

④地域要因比較個別的要因比較を行って

⑤求められた賃料を比較考量して

試算賃料を求める手法。

 

この場合においては、

対象不動産と類似性を有する

「賃貸借等の継続に係る」賃貸事例が

必要となる。

 

土壌汚染

土壌汚染とは、

土壌中に特定有害物質

(土壌に含まれることに起因して

人の健康に係る被害を生じるおそれがあるものとして土壌汚染対策法に定められた物質)

が基準値を超えて存在する状態。

 

売主リスク

売買後判明時、買主から瑕疵担保責任追及される可能性。取引機会の減少。

買主リスク

汚染物除去、汚染拡散防止に係る費用発生、土地利用に制約受ける可能性。

 

土壌汚染が存する場合には、

1.当該汚染の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置(以下「汚染の除去等の措置」)

に要する費用の発生や

2.土地利用上の制約 により、

3.価格形成に重大な影響を与えることがある。

4.土壌汚染対策法に規定する

土壌の特定有害物質による汚染に関して、

5.同法に基づく手続きに応じて次に掲げる事項に特に留意する必要がある。

 

①対象不動産が、

土壌汚染対策法に規定する

有害物質使用特定施設に係る工場若しくは 

事業場の敷地又は

これらの敷地であった履歴を有する土地 

を含むか否か

なお、

これらの土地に該当しないものであっても、

土壌汚染対策法に規定する

土壌の特定有害物質による汚染

が存する場合があることに留意する必要あり。

 

②対象不動産について、土壌汚染対策法の規定による土壌汚染状況調査を行う義務が

発生している土地を含むか否か

 

③対象不動産について、土壌汚染対策法の規定による要措置区域の指定若しくは 

形質変更時要届出区域の指定 

がなされている土地を含むか否か、

(要措置区域の指定がなされている土地を含む場合は、講ずべき汚染の除去等の措置の内容を含む。)

または過去においてこれらの指定若しくは

土壌汚染対策法の一部を改正する法律による

改正前の土壌汚染対策法の規定による

指定区域の指定の解除がなされた履歴がある

土地を含むか否か

 

土壌汚染が存在している場合の鑑定評価 原則と例外

A.原則   

土壌汚染が存することが判明している不動産については、

原則として

①汚染の分布状況

②汚染の除去等の措置に要する費用等を

③他の専門家が行った調査結果等

を活用して把握し、  

鑑定評価を行うものとする。

 

B.例外1

依頼目的や依頼条件による制限があり、

他の専門家が行った調査結果等を活用し得ない場合、

①依頼者の同意を得て、

②想定上の条件を付加して鑑定評価を行うことが出来る。

この場合における想定上の条件とは、

「土壌汚染が存する土地だが汚染が除去されたものとして評価を行う」

等であるが、この場合、

条件設定に係る一定の要件

(実現性/合法性/関係当事者第三者の利益を害する恐れがないこと等)

を満たさなければならない。

 

B.例外2

自己の調査分析能力の範囲内で

当該要因に係る価格形成上の影響の程度を推定して鑑定評価を行うこと。

なお当該推定を行うためには、

客観的な推定ができると認められることが必要である。

具体的には、

①周辺に比較可能な類似の取引事例が存在し、

②その価格が当該汚染の事実を織り込んで

価格形成されている場合、

③当該事例との比較から汚染が存することによる

減価の程度を客観的に予測して

対象不動産の鑑定評価額へ

反映させる等である。

 

土壌汚染が存在し、「汚染の除去等の措置がなされたものとして」という条件付加

実現性

ⅰ所有者や購入予定者等の

対象不動産の現況を変更する権限を持つものに、土壌汚染の除去等を行う意思や着手の確認を行い、依頼書や確認書等にその旨を記載するものとする。

ⅱ合わせてその変更を行う資力があるかどうかを勘案

 

合法性

②土壌汚染対策法の規定による

要措置区域・形質変更時要届出区域の指定等

がなされている土地を含む場合、

汚染の除去等は法の手続きによって行われることから、当該条件付加は妥当性を欠く。

(有害物質・調査義務等も検討する。)

 

関係当事者及び第三者

③依頼目的が担保評価や第三者への売却価格の参考とするための鑑定評価の場合、

現況と異なる個別的要因を前提とした

鑑定評価を行うことによって、

対象不動産の価格に関する関係当事者及び第三者の適切な判断を誤らせる可能性を有しており妥当性を欠く。

 

証券化対象不動産の鑑定評価においては、

投資家保護の観点から土壌汚染の価格に与える影響についての結論を求められるため、

当該条件設定は妥当性を欠く。

 

土壌汚染の有無を価格形成要因から除外して鑑定評価実施可能な場合

①鑑定士は、

土壌汚染の有無について現地調査/過去地図閲覧/依頼者等へのヒアリング等

を通じた対象地及び周辺エリアの

地歴調査も行わなければならない。

 

②このような通常の調査において

当該事項の存否の端緒すら確認できない場合において、

当該事項が対象不動産の価格形成に

大きな影響を与えることがないと

判断されるときには、

価格形成要因から除外して

鑑定評価を行うことが出来るものとする。

 

鑑定評価報告書

鑑定評価報告書は、

①鑑定評価の基本的事項及び

②鑑定評価額を表し、

③鑑定評価額を決定した理由を説明し、

④その不動産の鑑定評価に関与した

不動産鑑定士の責任の所在を示すことを

趣旨とするものである。

 

鑑定評価書の作成

鑑定評価書の作成にあたっては、

まずその鑑定評価の過程において

①採用したすべての資料を整理し、

②価格形成要因に関する判断、

③鑑定評価方式の適用に係る判断 

等に関する事項を明確にして、

④これに基づいて作成されるべきである。

 

鑑定評価書の内容

鑑定評価書の内容は、

①不動産鑑定業者が

依頼者に交付する鑑定評価書の

実質的な内容となるものである。

したがって、

鑑定評価報告書は、

①鑑定評価書を通じて依頼者のみならず、

②第三者にも影響を及ぼすものであり、

③さらには不動産の適正な価格の形成の基礎

となるものであるから、

④その作成にあたっては、

誤解の生ずる余地を与えないよう留意する

とともに、

⑤特に鑑定評価額の決定の理由については、

⑥依頼者その他第三者に対して

十分に説明し得るものとするように

努めなければならない。

  

記載事項

鑑定評価報告書には、

少なくとも次の10項について

それぞれに定めるところに留意して

記載しなければならない。

①鑑定評価額及び価格又は賃料の種類

②鑑定評価の条件

③対象不動産の所在/地番/地目/家屋番号/構造

/用途/数量/対象不動産に係る権利の種類

④鑑定評価の依頼目的及び条件と価格又は

賃料の種類との関連

⑤価格時点及び鑑定評価を行った年月日

⑥鑑定評価額の決定の理由の要旨

⑦鑑定評価上の不明事項に係る取扱い及び

調査の範囲

⑧関与不動産鑑定士又は

関与不動産鑑定業者に係る利害関係等

⑨関与不動産鑑定士の氏名

⑩依頼者及び鑑定評価書が

依頼者以外に提出される場合における

当該提出先の氏名又は名称

 

必須記載事項

鑑定評価報告書は、

依頼者、第三者に対して影響を及ぼし、

適正な価格の形成の基礎

となるものであるから、

その作成にあたっては、

鑑定評価額と価格の種類、

鑑定評価の条件、対象不動産の所在、地番

のほか、

価格時点及び鑑定評価を行った年月日並びに

実査日を必ず記載しなければならない。

 

鑑定評価を行った年月日とは

いわゆる評価時点のことである。

これは鑑定理論の手順を完了した日、すなわち

鑑定評価報告書を作成し、

これに鑑定評価額を表示した日である。

これを記載する主旨は、

価格時点と評価時点の間隔の如何は、

資料の収集の可能性、

価格形成要因の分析の正確性等に

影響を及ぼし、

鑑定評価額とも関係してくる場合があるので、

当該評価時点においては当該鑑定評価額としたことに手落ちがなかったことを

後日立証する点にある。

このため価格時点、

評価時点は鑑定評価報告書への必須記載事項になっている。

 

鑑定評価額の決定の理由の主旨は

鑑定評価額が基準の定めるところに従い、

十分に合理的な根拠に基づいて

決定されたものであることを明確にし、

鑑定評価額の妥当性を立証

するためのものであり、

抽象的な表現はできる限り避け、

論理的かつ実証的に記載すべきである。

 

関与不動産鑑定士または関与不動産鑑定業者に係る利害関係等の記載が求められるようになった背景

近年、不動産の証券化に係る鑑定評価や

財務諸表のための価格調査等、

依頼者の鑑定評価に対するニーズが

多様化していること等から、

不動産鑑定評価に対する公正生、独立性、

透明性がより厳格に求められるようになったことにあると解する